苺の誘惑 ～御曹司副社長の甘い計略～

第３章 とまどい？ ときめき？ ルームシェア

12

　芹澤さんは眉を寄せた。
「それは、どうして？」

「あの……正直に言うと、怖くて仕方がないんです。芹澤さんがわたしのためにあれほどのご準備していただいたことを知って……」

　彼は何も言わず、ただじっとわたしの顔を見つめ、次の言葉を待っていた。

「それに見合うだけのことが出来るとは、どうしても思えなくて」

　芹澤さんはテーブルにグラスを置くと、わたしのほうに顔を向けた。
「つまり失敗して、ぼくを失望させることが怖いってこと？」

「はい、そうです……だから早いうちに、どなたか別の方を探していただいたほうがいいのではないかと思って」

　きらりと目を輝かせて、芹澤さんはわたしを見つめた。
　
　そして、また、思いもよらないことを口にした。
「合格。思ったとおりだ。とても誠実な人だね。きみは」

「誠実？　いえ、一旦引き受けた話をお断りしようとしてるんですが」
　それのどこが誠実？

　芹澤さんはワインを一口飲んで、その訳を話し始めた。

「今日の午後、なんできみをこの家にひとりっきりにしたと思う？」
「えっ？」

「実はね、きみがどういう人物か見極めるためにわざとそうしたんだ」
「見極める？」
「そう。まず、ぼくが相当な資産家であることを見せつけておいて、それから、ひとりになったきみがどう動くかを観察していたんだ」

　ほら、その端末、と彼は指さした。
「それが、きみがどこにいるか、教えてくれる」

　わたしは端末に目をやった。
　あっ、GPSか。

「もし、邪な考えの持ち主なら、家を物色して金目のものを探すだろうと思ってね。気づいたかな、きみの部屋のクローゼットに置いてあるジュエリー。すべて持ち出して売り払えば、おそらく500万か600万ぐらいにはなる」

　はい？

　その言葉を聞いて、わたしは思わず声をはりあげた。
「えっ、じゃあ、わたしが盗みをするんじゃないかって、疑ってたってことですか？」