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第9章 ふたつの恋の結末
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宗太さんの部屋を出てから3日後。
その日から何度も何度も着信があった。
日本に帰ってきたんだ、宗太さん。
でも、わたしは1度も電話に出ることなく、スマホの電源を切った。
彼の声を聞いてしまえば、せっかくの決意が無駄になる。
家に来るのではないかと心配したけれど、結局、来なかった。
きっと……
宗太さんも冷静になって気づいたのだろう。
わたしたちが一緒になれるはずがないことに。
最初のうちは叫びだしたくなるほど辛かった。
でも、3日、4日と日が経つうちに、痛みを感じなくなっていった。
痛みだけでなく、何も感じなくなった。
お笑い番組を見ても、まったく面白くない。
悲しいニュースを聞いてもまるで同情心が沸いてこない。
何を食べてもおいしいと思えない。
そんな状態だった。
耐えがたいことを経験すると心が麻痺するのかもしれない。
壊れてしまわないように。
だからその日、バイトに出勤する直前、店のドアの手前で宗太さんに呼び止められたとき、自分でも驚くほど、なんの感情も沸いてこなかった。
「……宗太さん、どうしてここに」
「会いたかったよ……エリカ」
そう言われて抱きしめられても、すぐには心が反応しなかった。
「ごめん、すぐに迎えに来てあげられなくて」
「離して……人が見るから」
「嫌だ。離さない」
「叔父さんから話は聞いたでしょう。やっぱりわたしたちの結婚なんて、はじめから無理な話だったのよ」
「いや、そんなことない」
エリカ……何度もそうつぶやきながら、宗太さんは腕の力を強める。
逃れようともがきながらも、懐かしい彼の温もりが、心を覆っていた頑丈な覆いにひびを入れるのを感じていた。
宗太さんがいなくても平気なんて、嘘だ。
本当はこの腕が恋しくてたまらなかった。
失うのは、耐えがたいほど辛い。
でも、彼のために、身を切る思いで、あの部屋を出た。
その気持ちにも嘘はない。
その日から何度も何度も着信があった。
日本に帰ってきたんだ、宗太さん。
でも、わたしは1度も電話に出ることなく、スマホの電源を切った。
彼の声を聞いてしまえば、せっかくの決意が無駄になる。
家に来るのではないかと心配したけれど、結局、来なかった。
きっと……
宗太さんも冷静になって気づいたのだろう。
わたしたちが一緒になれるはずがないことに。
最初のうちは叫びだしたくなるほど辛かった。
でも、3日、4日と日が経つうちに、痛みを感じなくなっていった。
痛みだけでなく、何も感じなくなった。
お笑い番組を見ても、まったく面白くない。
悲しいニュースを聞いてもまるで同情心が沸いてこない。
何を食べてもおいしいと思えない。
そんな状態だった。
耐えがたいことを経験すると心が麻痺するのかもしれない。
壊れてしまわないように。
だからその日、バイトに出勤する直前、店のドアの手前で宗太さんに呼び止められたとき、自分でも驚くほど、なんの感情も沸いてこなかった。
「……宗太さん、どうしてここに」
「会いたかったよ……エリカ」
そう言われて抱きしめられても、すぐには心が反応しなかった。
「ごめん、すぐに迎えに来てあげられなくて」
「離して……人が見るから」
「嫌だ。離さない」
「叔父さんから話は聞いたでしょう。やっぱりわたしたちの結婚なんて、はじめから無理な話だったのよ」
「いや、そんなことない」
エリカ……何度もそうつぶやきながら、宗太さんは腕の力を強める。
逃れようともがきながらも、懐かしい彼の温もりが、心を覆っていた頑丈な覆いにひびを入れるのを感じていた。
宗太さんがいなくても平気なんて、嘘だ。
本当はこの腕が恋しくてたまらなかった。
失うのは、耐えがたいほど辛い。
でも、彼のために、身を切る思いで、あの部屋を出た。
その気持ちにも嘘はない。
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