使い捨て勇者にされた俺が元魔王と一緒に、利用してきた国を飛び出して自由な冒険者を始めた話

安佐ゆう

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第四章 冒険者生活

第49話 魔の森の伝説

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 行商の旅はおおむね順調に進んだ。
 商人たちの馬車は、行く先々で荷物を降ろし、また積んで、軽くなることはない。半日から一日の行程で先に進み、泊まった村で行商をして、また先へ進む。
 スローペースの旅の途中で、捕まえた野盗の情報が伝わってきた。

「君たちが捕まえた盗賊団だが、どうやら首領は賞金首だったらしいよ。幹部らしき男を逃がしたのは惜しかったね」

 賞金首というのは、普通の報奨金だけでなく追加で賞金が懸けられている犯罪者のことだ。
 商人から聞いた話によると、その黒マントの男が北の荒れ地にふらっと現れたのは数年前。そのあたりを拠点としていた野盗たちのグループをいくつか、あっという間にまとめて盗賊団を組織した。盗賊団に入れるのは人族に限り、ハルン教に改宗するよう強要される。
 戒律は厳しかったが金払いはよく、その後も小さな野盗グループはこぞってその盗賊団に参加し、勢力を広げていたらしい。

「今回捕まえたのは下っ端ばかりで、盗賊団の規模や首領についてもほとんど分からないままなんだ。しかしそれなりの痛手は与えたはずだよ」

 どっかで聞いたことがあるような、黒マントの話だった。いや、黒いマントなんて、ごくありふれた装備のひとつに過ぎないから、関係は無いだろうが。

 ◆◆◆

 イリーナの森。くっきりと現世から切りはなされたように暗い木々の影に沈むそこは、人族には魔の森と呼ばれる。
 左手に魔の森を眺めながら、隊商は進む。
 馬車が通る踏み固められた道も、まるでその森に触れれば引きずり込まれると用心しているかのように、一定の距離を保っている。

 魔の森という名の由来は、古くから伝わる伝説による。
 俺達森の民に伝わる話をしよう。
 遠い、遠い、昔の話だ。

 ――――

 大昔、この森から巨大な魔物が現れた。魔物は強く、凶悪だ。空を飛び、建物を壊し、多くの人々を食い散らかす。人々はその魔物に抗うも、打つ手はなく近隣の二つの国が消える。
 残された人々は為すすべもなく、このまま滅びるのかと恐れ、震え、隠れ住んだ。
 廃墟となった地に、ある時どこからともなく勇者と呼ばれる一行が現れる。

 神々しい金色の髪で剣を振るう人族の男。
 黒髪に立派な角と大きくとがった耳を持つ美しい男。
 たくましく人の二倍は背丈がある燃えるような赤毛の巨人。
 闇を流し込んだような黒髪黒目で小麦色の肌の物静かな女。
 そして小さく愛らしい獣。

 隠れていた人々が固唾を飲んで見守る中、超人的な技や魔法を持って巨大な魔物と戦う勇者一行。激しい戦いは何日も続く。
 そしてついに魔物は力尽き、勇者一行が勝利したと思われた。しかし勇者たちもまた、余力を持たなかった。勇者たちの一瞬の隙を突き、最後の力を振り絞って魔物は森に逃げ帰った。
 隠れ家から現れてきた人々に、勇者たちが語りかけた。

「魔物の力は削いだ。奴が力を取り戻すには数十年もかかるだろう」
「だが数十年では時間が足りぬ。俺たちは年を取り、奴はまた力をつける」
「それなら鍛えればいい。人がいつか再び現れるこの魔物に勝てるように」

 勇者たちは顔を見合わせて頷く。

「俺はこの地に残り、生き残った人々を鍛え上げよう」
 金髪の男はその場に国を築き、人々に戦う技術を教えた。

「では私は北へ。人々と共に魔法の技術をさらに磨きましょう」
 角を持つ男は北へ向かい、魔法を極めるために国を作った。

「俺は南へ行こう。人々が希望を持って力を合わせて戦えるように」
 赤毛の巨人は海を渡り、人々が溢れかえる栄えた国を作った。

「ならば私達は、この森へと入りましょう。皆が力をつける時間を作るために」
 そして黒髪の女と獣は森へと魔物を追いかけた。千年の時を作るために、たった二人、森の奥に魔物を封印するために。


 森に入った黒髪の女の名はイリーナ。彼女と獣は魔物を追い、森の奥深くへと向かう。途中、多くの魔物に出会い、倒し、何日もかけて森を進んだ。
 その森の一番奥はルーヌ山の麓、切り立った崖がそびえていた。そしてその手前には底が見えぬほど深い谷がある。イリーナと獣に追い詰められた魔物は、その谷に逃げ込んだ。さらに谷底まで向かおうとしたイリーナ達をみて、魔物は逃げるのをやめる。その身体を谷の壁に強く当てて、地崩れを起こしたのだ。地面は大きく揺れ、崩れた崖の岩が魔物を巻き込んで谷を埋めた。
 かろうじて崩落から免れたイリーナと獣だったが、魔物はただ、地の底に潜み回復を図っていることを知る。
 今は平地となってしまったその谷の上に、イリーナと獣は協力して大きな魔法陣を描いた。

「この魔法陣が千年の間、この地に魔物を封印し続けるでしょう。私とその子孫は、それを見守ります。森の外の人々が、この魔物と対抗できる力をつけるまで」

 小さな獣は最後までイリーナのそばを離れなかったという。
 しかし、獣は長生きで、イリーナはただの人に過ぎなかった。
 年を経て、やがて亡くなったイリーナを弔うと、獣はどこかへ消えてしまった。

 ――――


 森の民に伝わる話だ。

 だがしかしアルハラにつかまっていた間に聞いた話によると、勇者一行は全員が美しい金色の髪を持っていたという。
 昔話というものは、こうしてだんだん形を変えていく。

 触れれば引きずり込まれるような昏い森の奥に、今もまだ、その魔物は眠り続けているのだろうか。それとも、伝説はただの伝説に過ぎないのだろうか。

 隊商の馬車は進む。右手に森を見ながら。
 やがて、辿り着いたのはイデオンの最北の街、カドルチーク。

 ルーヌ山と魔の森に接するカドルチークは、農耕と牧畜が盛んな街だ。どちらかというと食料生産に乏しいイデオンの中では、重要な街であり、人口も多い。内陸部の辺鄙な場所にあるとは思えない大規模な街壁を備えている。
 馬車はまるで森から逃れるように、城壁の中に吸い込まれていった。
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