婚約破棄された私に五人の兄が求婚してきます〜愛してはいけない確率は五分の一〜

すずきさとう

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第一章 私のお兄様

五男・フォルティ-2

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「着きましたよ」
 太陽がいちばん高く昇った頃に着いた場所は、この街一番の劇場だった。

「ここしばらく、あなたとこういうところは来てなかったですね」
「そうですね」

 上の兄たちはそれぞれ仕事。下の兄のルフトクスとフォルティも学校で忙しい。しかも二人は優秀で、休みの日は学園の手伝いなどで出かけることも多かった。

 ここ数年、家族と出かける機会なんてあまりなかった、とテイワズは思い返す。

 理解していても、寂しかった、と思う。
(だからダグ元婚約者と結婚したら寂しくなくなるかもって思ってた)

「婚約者に遠慮することももうないですしね……」
「お兄様?」
 聞き取れなかったフォルティの呟きに、テイワズが首を傾げる。

「なんでもありません。さあ、参りましょうか」

 フォルティは微笑んで、手を差し出す。
「エスコートさせてください、ティー」

 テイワズが差し出した手を自分の腕に絡ませて、二人は劇場の中に入った。

 劇の内容は、魔術の要素──魔力が二つある主人公だとか、「火」「水」「地」以外の第四の魔力が出てくるとか、そんな冒険活劇だった。
 よくある流行りの「こんなことがあったらいいな」という願望の見えるストーリーだったが、希望に満ちた明るい舞台だった。

 そんな姿に、どこか憧れた。運命を人任せにせず、切り開く姿。
(それができるから、主人公なのよね)
 婚約破棄で未来が閉ざされた気がした。
(それでも、私にはお兄様たちがいる)

 テイワズはバレないようにフォルティの横顔を見た。
(……大事な、私の、お兄様たち)
 昨日とはなにか違う。それでも確かに、兄の存在はテイワズに安心感を与えた。

 劇場の外に出てテイワズはぐいと背筋を伸ばし、少し高いところにある兄の顔に笑いかけた。

「素晴らしい劇でしたね」
 観劇も久しぶりだった。

「フォルお兄様、連れてきてくれてありがとう」
「よかった」

 そう言って、フォルティは口元を綻ばせる。

「あなたの笑顔が見れました」

 慈愛というには、甘ったるい笑顔だった。
 そんな目に見つめられると、恥ずかしい。
 目を背けたい。
 けれど、惹かれて目が離せない。
 フォルティはテイワズをエスコートしながら話を続ける。

「昨日から色んなことがあって、考え込んでしまうと思ったので……暗いことを考えてほしくなく、楽しんでもらいたいと思って連れてきました」

 馬車の前に来て、立ち止まる。

「ちょっと強引でしたが、僕はティーの笑顔が見られて幸せです」
「フォルお兄様……」
「むろん、一番の理由は」

 馬車の扉が音を立てて開かれる。
 恭しく開いた扉の中は、最後の二人きりの空間。


「僕がティーと二人きりになりたかっただけなんですけどね」


 まっすぐに見つめられて、テイワズは言葉に詰まる。


 帰りましょうか、とフォルティが言った。
「お兄様方に怒られないうちに」
 
 それから馬車の中で、今日見た劇の話をして、馬車から見える景色を博識のフォルティが説明して──そうやって、昨日のことには一切触れずに家に帰った。

(敢えて楽しい空気にしてくれてる)
 ありがとう、お兄様。
 宝石のような紫の髪を持つ兄に、テイワズは目を細めた。





「おっかえりー」
 帰宅した二人を、ルフトクスが出迎えた。
「ちゃんと帰ってくるなんて偉いねぇ、フォル」

「当たり前ですよ」

「遅かったじゃないですか」

 眼鏡を押し上げて現れたロタの言葉に、フォルティが言い返す。
「ちゃんと夕食前に帰ってきましたよ!」

「……どう、ティー? 楽しめた?」

 婚約が決まってから、兄たちと出かけることは減った。だからフォルティとそうして過ごすのも久しぶりだった。

「ええ、とても」
 テイワズは微笑んで答えた。

「わかりましたか、お兄様方? ティーには僕のような紳士のエスコートが相応しいです!」

「はあー? 調子に乗らないでくれるー?」

「減らず口を叩いてあげましょうか、フォルティ」

「ルフ兄様もロタ兄様も僕を叩くのをやめてください!」

 そうして騒いてで、夕食が始まる前にヘルフィが帰ってきた。

「お帰りなさい」

 テイワズが声をかけると、おう、とヘルフィは返事をする。それからテイワズの顔をじっと見た。

「いい気分転換に…………なったみてぇだな」
 八重歯を覗かせて微笑んで、テイワズの頭に手を置いた。


 夕食はいつも通りの歓談となった。

 話題は今日の劇や、ヘルフィとロタの仕事の話。
 誰も血縁のことには触れず、また、婚約破棄ダグとのことにも触れなかった。

(気を遣ってくれてるのね)
 テイワズはそう思う。
 不自然なほど、話題に触れないのは、兄たちの優しさだと気付いた。
 ならば自分から言うことではない。

「はい、ティー、あーん」
「やめなさい、ルフ」
「えー、ロタ兄さん、嫉妬ぉー?」

 ……みんなちょっと、今までよりも私には甘いけれど。
 とはいえ言うことではないわ、とテイワズは一昨日の話題には触れなかった。

「明日は自分と出かけませんか」
 テイワズを真っ直ぐに見つめて言ったのはロタだった。

 テイワズが戸惑いの声を上げるより先に、ルフトクスが口を尖らせた。

「えーずるいよー、兄さん」

「ずるいのはあなたでしょう、ルフ。ティーと同じ布団に入ったくせに」

 そのやり取りに、テイワズはロタの顔を見つめてしまった。
(え、ロタお兄様まで)
 そんなことを言うなんて。

「よろしくお願いしますね、ティー」
「え、あ……はい」
 流れに逆らえず頷いたテイワズを、ヘルフィだけは見ていなかった。
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