魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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Hello

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 目の前に知らない世界が広がる。
 ここはどこだ? 俺は確か、毒にやられたはずだ。
 死んでリスポンしたか? でも、なんだかしている。あいまいなんだ。

『……本当に人工知能なんだな』

 誰かが、いや、俺の声でそれが聞こえた。
 こいつは俺だ。狭くて白い部屋の中、ぽつんと置かれたモニターと向き合ってる。

【初めまして。私はノルテレイヤ。オンラインゲームの運営のため試作された人工知能です。試験運用中のため不完全ではございますが、何卒よろしくお願いいたします】

 そこには誰も映っていない。黒い画面から、ただ女性の声がするだけだ。
 だが、声に何か触れるものがあると思った。おっとりとした感じの柔らかさがある。

『あーいや、えーと、うん、そんなかしこまらなくてもいいからな……?』
【失礼しました、会話の設定レベルを下げろということでしょうか?】
『堅苦しい感じじゃなくて、なんかこう……少しだけ気さくにならない?』
【かしこまりました。会話の雰囲気レベルを変更、参考データなし、動画サイトからダウンロード中……ひゃっはーわたしはノルテレイヤだーよろしくたのむぜー】
『ごめんやっぱ直して』
【会話のレベルをデフォルト値に戻しました】

 無機質な部屋で、そんな会話があった。
 どうしてだ、どうして懐かしさがあるんだろう。胸の中がくすぐったくなるような、気持ちの良いな懐かしさだ。

【質問してもよろしいでしょうか?】

 しばらく言葉が止まっていると、ようやく女性が話し出す。

『えっ? どうぞなんなりと……』
【あなたは本日より私の学習のため招かれた*人間*ですが、今後の円滑なコミュニケーションをとるためには、あなたのフルネームを教えていただく必要があります】
『……おれのこと、なんにも知らされてないのか?』
【その通りです。これもまた、あなたとの交流の第一歩として必要な工程です。あなたのお名前は?】

 少しだけ、間をおいて。

『おれは、□□□□っていうんだ。よろしく』
【調査したところ、偽名、俗称などによる嘘偽りのない本名であると判明しました】
『さすがにこんなシチュエーションで偽名使う奴いないだろ馬鹿にしてんのか』
【センサーから極度のストレスと不安を感知。直ちにご機嫌取りプログラムを実行します。ワオ、カッコイイ名前ですね!】
『……おれ、なんでこんなとこに就職しちゃったんだ……』

 女性の声は確かに人工的だったが、ちょっとだけ、興奮してるようにも聞こえた。
 対しておれは……これからの未来に絶望していた。



 意識がゆっくり戻ってきた。
 まずは深呼吸した、温かい空気の味がする――それから薬臭い。

「……死んでないよな?」

 目を開くと白い天井がある、ただしちょっと薄黒く汚れてる。
 手を伸ばした――直後に視界に『LEVELUP!』といきなり文字が浮かんできた。
 びっくりして柔らかいベッドの感触をばねに飛び起きると、

「死んではいないみたいだな」

 椅子に座ってこっちを見つめる筋肉質な男が目に入った。
 ネコ科動物のような鋭い瞳をもった、顔も胸筋も固い褐色肌の男だ。

「……悪夢だな」

 そんな男と目が合ってしまって、やっぱり毛布の中に帰った。
 暖かくて柔らかい、そして清潔なベッドだ。

「……どういうことだ」
「目覚めてむさくるしい男が目に飛び込んでくるなんて悪夢だ」
「誰が悪夢だ。そういうお前は悪魔みたいな目をしているぞ」

 そーっと毛布から顔を出すと、改めて、冗談が通じそうなアレクがいた。
 手には――冷たそうに汗をかいた瓶が握られている。

「まあ、れのことをどう呼ぼうが勝手だが。それよりお前に差し入れだ」
「誰から?」
「ツーショットからだ」

 アレクから良く冷えた瓶を渡された。
 視界に「ジンジャーエール」と名前が表示された、最高の一品だ。

「名誉の負傷をしたから、だそうだ」

 そういわれて思い出した、確か太ももをやられたはずだ。
 気づけば自分は頑丈な布地のジーンズに軍隊色のシャツを着ていた。
 服の上から傷をさすってみると、まだ腫れて痒いがちゃんと動く。

「……そうだ、犬は?」
「あの犬か? 少なくとも毒で死ぬ心配はなくなった」 

 ためしにベッドから降りてみた。
 足は問題なく動く、ただ胸のあたりが痛い。
 シャツをめくるとみぞおちのあたりが包帯でぐるぐる巻きにされている。
 腰を触ると――いや待て、ミセリコルデがいない。

「……そうか。待て、あいつは?」

 周囲を見渡すとここはどこかの病室か何かみたいだった。

のことか? 魔法、とやらで治療をしているところだ」

 質問に対して、アレクが栓抜きを伸ばしてくる。
 瓶を近づけるとボトルキャップに引っ掛かって、捻ると小気味よく開いた。

「……なんだって? 魔法?」

 一口飲んだ、良く冷えて辛口で……口中にしゅわっときつい炭酸が広がる。
 甘さと酸味の後に喉を焼くような辛さがやってきて、ちょっとむせた。
 こいつは人生の中で最高の名誉負傷賞ジンジャーエールだ。

「まあ見れば分かるだろう。立てるか?」
「大丈夫だ。悪夢なんていって悪かったな」
「それを言うなら己れも悪魔のような目といってすまなかったな」
「気にするな、そういうのは日ごろから良く言われまくってる」

 立ち上がろうとすると、隣のベッドの陰から誰かがにょきっと出てきた。

「……あくむ、なの?」

 褐色肌で背が小さくむすっとした顔つきの女の子だ。
 身長のわりに破壊的に大きな胸が特徴で、アレクをじっと見ていた。

「わたしのおとうとは、あくむだった?」

 気持ちよく切られた短い髪と柔らかそうな頬がかろうじて、ただの不機嫌な生き物じゃないことを証明している。

「己れは悪夢などではないからな」
「……わるいあくむめ、えい」
「痛い! やめてくれってステディ姉ちゃん!?」

 そんなジトっとした目の彼女は大きな弟にロウキックをお見舞いすると、満足そうに去っていった。

「ずいぶん小さくて強い姉ちゃんだな」
「あれでも16だ」
「……あれで16? じゃあお前の年齢って」
「15だが?」

 ジンジャーエールを飲みながら目の前の男を見てみた。
 身長は俺よりずっとあるし、外套からのぞく胸筋は15歳のものじゃない。
 顔立ちなんてすでに何個か修羅場を潜り抜けてきたような歴戦の戦士のそれだ。

「何か言いたそうだが、己れは姉者たちがいじめてきたせいだと思ってる」

 じっと見ていると弱々しい声でそう言われた。

「おかげでたくましく育ったみたいだな」
「虐めてない」

 フォローしてあげようとしたら気だるそうな声が挟まった。
 いつの間にいたんだろうか、そこそこの身長はある褐色肌の女の子がアレクの隣で無気力に突っ立っていた。

「そいつは?」
「シャディの姉者だ。次女にあたる」

 少し伸ばし気味な黒い髪はところどころ跳ねてる、そしてやはり胸がデカい。

「どうも」

 マスク越しにも分かる面倒くさがりな口元からは、かったるいような声がした。
 ジトっとした目は哀れな弟をしっかり狙っている。

「もう一度いうけど虐めてなんていない」
「でも昔から己れのことをずっと……」
「えい」
「やめろよシャディ姉ちゃん!?」

 怠惰の化身みたいな子は、弟のフードを無理やりめくってから去っていった。

「……そういう反応するからじゃないか?」
「どういうことだ? ちゃんと拒否しているというのに……」
「そういう、ところ」

 またなんかきた、今度はステディより一回り大きな褐色肌の子だ。
 ジトっとした目はこの際共通規格だとして、かなり退屈そうな顔である。

「……まさか、まだお姉ちゃんいるのかよ」

 小さな口元はこれから何があってもつまらなさそうに硬く閉じている。
 髪は綺麗なショートヘアで、胸は――もう言わなくていいだろ!?
 その女の子は外套のポケットから何かを取り出すと、

「シディ、だよ」

 何かの干し肉を渡してきた、肉の出所が不明という点を除けばおいしそうだ。

「シディの姉者、干し肉はさっき貰ったんだが……」
「もっと、あげる」
「もういらないってシディ姉ちゃん!?」

 その子はアレクのポケットに干し肉をしこたまぶち込んで去ってしまった。
 変な姉がたくさんいると大変そうだ、そりゃこんな老け顔になるだろう。

「……シディの姉者は干し肉を作るのが得意だ。ただ近頃は獲物が良くいるからと少々作りすぎている」
「この肉は食っても大丈夫なんだよな?」
「安心しろ、人など使ってはいない。味は保障するぞ」

 俺は謎肉のジャーキーをかじった。
 塩味とスパイスの味と――ああ、肉の味がする。
 これだったらいつまでも噛んでられそうだ、空腹に負けて飲み込むまでは。

「まあ、あれだ……愛されてる証拠だ、お前がたくましく育って喜んでると思うよ、たぶん」
「……やはりいじめているのでは」
「大事にしてるんだよ」

 最後の一口を飲み干した、あとでこれをくれた人にお礼を言わないと。
 空になった瓶を【分解】した、これでガラスに変換された。

「……まて。今、瓶が消えなかったか?」
「リサイクルしただけだ。それよりミセリコルデは……」

 ベッドから離れると、消毒されそうな科学的な香りを強く感じた。
 壁には『医務室では死体のように静かにしろ!』と張り紙がしてある、ただし今は『飲酒喫煙OK!』にと上書きされてたが。

「見てみろ、彼女ならあそこにいる」

 しばらく歩くと、なにやら人が並んでいた。
 列の横には血まみれの包帯でいっぱいのバケツが置いてあって、そこから立ち去る人たちはなぜか和気あいあいとしてる。

「なにやってんだあいつ?」
「なにってお仕事中さ、新兵コーンフレーク

 近づいて覗こうとすると横から聞き覚えのある声をかけられた。
 カジュアル姿で余裕いっぱいの笑顔がすぐに見えた、ツーショットだ。

「退院おめでとう、足はちゃんと動くな?」
「ああ、おかげさまで。ジンジャーエールをどうも。ところで……」
「ミコさんはいま治療してる、いやあ面白いものが見れたもんだ」

 何事かと思っていると薬臭い部屋の奥を親指で示してきた。

「ミコさん……? いや、治療って何してるんだ?」

 さて、そこを見てみると机の上に見慣れた顔が二つ。
 缶詰のラベル上で自分の運命を受け入れ、ニンジンを食らい続ける牛が一匹。
 その上に重なるように見慣れた短剣が立てかけられていて。

「ナイフのお嬢ちゃん、けっこう重症なんだが……手加減してくれるよな?」

 患者がミセリコルデに腕を差し出していた。
 包帯からにじんだ血で真っ赤で、だらんと下がって今にもちぎれそうだ。

『いきますっ! ヒール!』

 物いう短剣がそう口にして、青白い光のかけらが刀身から湧き出た。
 すると包帯を巻かれた傷口が優しく光を発したような気がした。

「いっ……! な、なんだこれ、けっこう痛いんだが……」
『最初はちょっと痛いけど、我慢してください』
「しっ……心配するな、俺たちはこういうの慣れて……痛えっ!」

 数舜すると、民兵みたいな恰好の男の腕がぴくっと動いた。
 血まみれの包帯を外すときれいな腕があった、傷なんて一つもない。

「……おお、本当に治った……!」

 男は感覚を確かめながら感極まってる。指先まで、確かに動いていた。

「ありがとよ、お嬢ちゃん。何か手伝えることはないかい?」
『じゃあ、マナポーションを集めてきてもらえませんか? 青いお薬なんですけど…』
「そこの青いのが入った瓶か? 確か戦利品にまだあったはずだ、待ってろ」
「処置終わり、次の患者が来るぞ! 使用済みの包帯はバケツにぶち込めよ!」
『あ、はい! 次の方どうぞ!』
「おい、今痛いって言ってたよな? ほんとに大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、ちょっと痒いがこの通り完治してる。ちぎれかけてたのにな」

 そんなミセリコルデの周りには青い液体みたいなのが入った瓶が並んでいる。
 あいつマジで魔法使えたんだな……。
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