魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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世紀末世界のストレンジャー

死すら死んだ男が死ぬとどうなる?

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 そいつらが噂の『ブラックガンズ』だったようだ。
 俺が余所者ストレンジャーだと分かると、自分たちの農場まで案内してくれることになった。
 だいぶ遠く離れてしまったが、ニルソンとの繋がりが思い出せて安心した。
 「あんたはひとりじゃない」か。その通りだよ、ボス。

「……まあ、いろいろあったんだ」
「大変な目に会っていたのですね……。おのれ人食い族! イっちゃんやわんこを傷つけるなんて絶対許しませんわ! もう町ごとどろどろに溶かしてマナにして差し上げます!」
「落ち着けよリム様、きれいに片付けといたから心配するな」
『ほんとに大変だったよね……』
「ウォンッ」

 揺れる荷台の上で俺たちはこれまでのことを話していた。
 狩猟用のトラックは農場を目指して走っているが、振動が伝わるたびに頭がじりじり痛んで気分が悪くなってきた。

「しかしこちらの世界であなたのような方と出会えるとはな。形がどうであれこうして会えて光栄だ、リーリム殿よ」
「ローゼンベルガー家の子もいるなんて……なんて賑やかなのかしら! 今日は帰ったらごちそうですわ!」
「俺様以外にも薬学の権威であるフロレンツィア様に、あのチャールトン卿もいたのだが……お二人ともまだまだ現役といった感じだったぞ」
「まあ、懐かしいメンツまで……あとでご挨拶にいかないと! ところでノルちゃん、この世界の生活には慣れました? ごはんちゃんと食べてました?」
「ふははっ! まったく問題はないぞ、リーリム殿。異世界だろうがオーガの血は伊達ではないのだからな!」

 オーガと魔女という組み合わせが生む会話はエンジン音がかすむほど騒がしい。
 その上、俺たちの合間には巨大牛がテーブル代わりに横たわっている。
 久々に会った知人との会話というのは果たして死体越しにするものなのか?

「で……リム様はなにやってんだ?」

 一通り話したところでリム様に尋ねた。

「あれから各地を飛び回っていたのですけれど、たまたまブラックガンズの皆様のところに行き着いてお世話になってますの」

 赤い目の魔女は運転席の方を示しながら答えてくれた。
 『いまの聞いたか? 今日はごちそうだとさ』と嬉しそうな声が聞こえる。

「その様子だとだいぶ馴染んでるみたいだな」
「ええ、それはもうどっぷりと! 気前が良いお方ばかりですし、皆さま食欲旺盛住ですからお料理の作りがいもありますし、居心地抜群ですわ!」
「じゃあなんだ、晩飯の材料でも狩りに来てたのか?」

 俺は目の前で横たわる牛モンスターの身体を見た。
 よく見ると目は開いたままでこっちをにらんでる――閉じてやった。

『お昼ご飯の間違いよ、ストレンジャー』
『リム様は無理やりついてきたんだぜ。乳製品もっと欲しいから捕まえるって言って聞かなかったんだ』

 すると助手席の方から声がやってくる。
 ……声の調子は感謝五割、迷惑五割という感じだ。

「ご安心なさい、お二人とも! 今日のご飯はクレイバッファローの炭焼きステーキですわ! 付け合わせはポテト一択!」
『さすがリム様、愛してるわ!』
『よっしゃ、我が家まで飛ばすぞ! 焼き加減はレアで頼む!』

 昼飯の献立を聞いたトラックが加速した。
 この様子を見るに相当信用されてるみたいだ。

「見事に彼らの胃袋を掴んでいるようだな、リーリム殿」
『ふふっ、りむサマすごく生き生きしてるね』
「ふっ……料理ギルドマスターですから! あちらに帰ったらこの世界の料理を広めてみようと思いますの、ふふ」

 異世界の魔女はミコたちと楽し気に話している。
 正直、一人でどこかに行ってしまって心配だったが、うまくやってたようでなによりだ。

「リム様も無事でよかった、こっちは大変だったけど――」

 そんな様子を見て一言挟もうとした直後、がたっと車が揺れた。
 荒野を走ってるんだから仕方がない、とはいえ脳にずっしり響く。
 こめかみの奥を熱したスプーンでえぐられるようなひどい痛みだ。
 それに喉の奥から吐き気がじわっとこみ上げてきた。

『いちクン……さっきからかなり苦しそうだけど……大丈夫?』

 よほど表情に出ているのか腰の短剣も心配そうだ。
 正直かなりつらい、車酔いでもしてしまったんだろうか。

「ちょっとやばい」

 俺は振動でかくかくうなずきながら短く答えた。

「あら……大丈夫ですの? イっちゃん、お顔がリビングデッドみたいになってますわ」
「む、どうしたのだ? 顔が真っ青ではないか」
「クゥン」

 だんだんと返事をする余裕もなくなってきた。
 思わず額に手を当てるとべっとりとした汗の感触、髪の生え際からは電気で焼き切られたような鋭い痛みもする。

「悪い、まずいかもしれない……その、あれだ、誰か撫でて気を紛らわしてくれ、優しくねっとりと」

 ひとまず深呼吸した、目を瞑って耐えることにしたが、無駄に高い『感覚』スキルのせいでダイレクトに来る。
 余計なもん感じ取りやがって、内臓を吐き出しそうなぐらい気分が悪い……。

「分かりましたわ。よしよし……」
「酔ったのか? リラックスすると良い、深呼吸して力を抜くのだ」
『ねえ、待って! いちクン、ほんとに具合悪そうだよ!?』
「まだくたばりそうにないから大丈夫だ。おい、そこ撫でるな変態」

 二人に背中やら腹やら太ももやら撫でられていると、荒野を抜けて小さな山のふもとまでやってきたようだ。
 痛みと気だるさがあふれる頭の中で、かろうじてその光景が見えた。

『――さあついたぞ。ただいま、我が家!』

 運転手の陽気な声の先には『ブラックガンズ』の縄張りといわんばかりの看板があった。

 最初に待ち構えていたのはいかにもな青と白の国旗、そして突撃銃のシルエットに『BlackGunsCompany』とロゴがある看板だ。
 その向こうでフェンスに囲まれた農地があって、遠目でも分かるほど豊かな色彩をウェイストランドにもたらしていた。

 だがそこは農場、というより基地というべきかもしれない。
 二つほどある巨大な倉庫、ニルソンでよく見たコンテナ群の姿、最近作られたログハウスが山を背に待ち構えていた。
 ただし監視塔つきだ、それも狙撃手つきの。

「……おい、お前らの農場ってずいぶんお堅いな」
『そりゃそうさ、こいつが長続きするコツなんだ。ニルソンみたいでいいだろ?』

 いわれてみれば確かにあそこらしさを感じる。
 現に車がゲートに近づくと『民兵』みたいなやつが近づいてきた。
 シャツと迷彩ズボンを着たたくましい男だ。

「よう、おかえり兄弟。狩りの成果はどうだった?」
『昼飯用の牛が一頭。それからさすらいのストレンジャーたちだ』
「ストレンジャー? ボスが送ったっていうあのやばいやつか?」
『まさにそのやばいやつだ、後ろ見てみろよ』

 そいつが言われるがままにやってくる、それから視線が合うと。

「おい、こいつが噂のやばいやつなのか? 顔色が死体みたいに真っ青なんだが……お前、大丈夫か?」

 一目見るなり心配されてしまった。
 よっぽどひどく見えるんだろう、とりあえず形だけでも笑顔を作った。

「ご心配どうも。ちょっと車酔いしただけだ」
「……人食いどもの巣に放り込まれて単身で壊滅させたって聞いたが、ほんとなのか? 今にもくたばりそうだぞこいつ」
『ははは! ストレンジャー様も車酔いには勝てなかったか!』
「あーいや車酔いっていうか……どう見ても様子が変だぞ。ちょっとメディックに診てもらえ、大至急だ」
『……そんなにまずいのか?』
「お前こいつのツラ見てないのか? これはあれだ、昔あいつが至近距離で迫撃砲弾食らったときみたいな感じだ」
『そんなにやばいのか?』

 だんだんと事の重大さが明るみに出てきたのか、運転席からにょきっと男女が様子をうかがいに来た。
 左右に分かれた二人は荷台に寄りかかる俺を見ると。

「どうだ? あんな感じだろ?」
「……おい、なんか今にもくたばりそうだが大丈夫か?」
「ねえ、これまずいんじゃないの? 車酔いってレベルじゃないわよ」

 もはや冗談も言ってられない様子で慌て始めた。
 そんなにひどいのか、と苦笑しながら額をぬぐうと――べとべとの汗の感触が。
 ノルベルトやリムさまも不安そうにこっちを見てきたと思えば、

「……よし早くいけ! ようこそストレンジャー、お前は今から急患だ!」
「くそっ! 予想外にひでーじゃねーか! 飛ばすぞ!」
「安全運転しなさいよ!」

 目の前に迫撃砲を食らったような顔が一体どんなものか分からないが、トラックは得物と患者を乗せて急発進。
 軽い衝撃だけでさらに頭の中がぐちゃぐちゃになるのを感じた。
 というかおかしい、手足の先端がびりびり痺れてきた。

「……まずい、なんか、しびれてきた」
『しびれてきたって……どこが?』
「指先とかそんな感じ……あと頭がクソ痛い」
『……ノルベルトくん、いちクンを寝かせて安静にさせて!』
「わ、分かった! イチよ、少し臭うが我慢するのだぞ!」

 急に視界も狭まり始めてくる。
 ノルベルトの馬鹿でかい腕に持ち上げられて、牛モンスターの腹が枕になる感触が伝わってきた。
 獣臭い。見上げると、リム様の顔が暗みがかかって見えた。

「イっちゃん、気を――――」

 なにか俺に向かって言っている。だめだ、聴覚すら鈍り始めた。
 手を動かそうとするが動かない、背中から力が抜けて呼吸も苦しい。

「一体どうしたのだ――、何が――」
『――クンが――、頭の――」

 感覚が機能しなくなってきた、思考だけは生きている。
 懐かしさも感じていた。メドゥーサスピットとかいう毒を受けたときも、こんな感じだったか。
 でも今回はあの痒みはない、あるのは頭の痛みと、寒気だ。
 もっといえば――そうだ『死』だ。ボルターで何度も味わったものだ。

「……死ぬのか」

 寒さが全身に広がる中、誰かにそう言った。
 手のひらをぎゅっと掴まれた気がした。リム様の体温か。
 途端に車が急停止、わずかな地面の振動、空気の震え、いろいろな人が周りに集まってる感じがする。

「……い! いったい……!」
「ストレ……死に……!」
「……って!? 見せて――」
『……クン! ……よ! ……クン!? ……いやだよ!』

 気合で現世にしがみついていると誰かが泣きわめいてる気がした。
 きっとミコだ、それも泣いてる。すまない、俺死ぬかも――

「……こんなダサい死に方、したくねえ」

 どうにか最後に出せた一言がそれだった。
 たった一声どうにか絞り出した直後、保ち続けていた意識は懐かしいあの暗闇の中へと溶け込んだ。

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