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第4話 英雄の影
しおりを挟む朝のギルドは、いつもより騒がしかった。
「聞いたか? 聖将が来るらしいぞ」
「本物の英雄様だ!」
聖将ヴァルガス。
王国公認の英雄であり、数々の戦功を持つ人物。
俺は、なるべく関わらないように荷物の整理に集中していた。
「アルト」
リゼアが、いつもより硬い声で呼ぶ。
「今日から、あんたは私の後ろに立ちなさい。
誰に何を言われても、動かないで」
「え?」
「いいから」
有無を言わせない口調。
その理由は、すぐに分かった。
ギルドの扉が開き、
重い足音と共に、一人の男が入ってきた。
金色の鎧。
無駄のない体躯。
周囲を圧する存在感。
「……聖将ヴァルガス」
彼の視線が、ゆっくりとギルド内をなぞる。
そして――俺で止まった。
「君が、刻印を施した少年か」
逃げ場はなかった。
「はい……」
「近くで見せてくれ」
一歩、距離が詰まる。
その瞬間、
リゼアが前に出た。
「彼に用があるなら、私を通して」
ギルド内が、静まり返る。
「ほう」
ヴァルガスは、興味深そうに目を細めた。
「剣士リゼア。
君が彼を庇う理由は?」
「理由?」
彼女は、迷わなかった。
「彼は、私の命を救った。
それだけで十分よ」
胸が、熱くなる。
ヴァルガスは、ふっと笑った。
「感情的だな。
英雄譚は、そういうものではない」
「英雄譚?」
リゼアの声が、低くなる。
「英雄って、前に立って剣を振る人のことでしょ」
「違う」
ヴァルガスは、断言した。
「英雄とは、力を持つ者だ。
そして、力は管理されるべきだ」
その言葉に、ミュゼが割って入る。
「つまり、彼を王国の管理下に置く、と?」
「察しがいい」
ヴァルガスは、俺を見る。
「君の才能は、危険だ。
だが、正しく使えば国を救える」
視線が、重い。
「俺は……」
言葉に詰まる。
その前に、リゼアが言った。
「彼は、道具じゃない」
はっきりと。
「アルトは、私の仲間よ」
ヴァルガスの目が、わずかに細くなる。
「選択を誤るな、剣士」
「誤らない」
リゼアは、一歩も引かない。
「私は、自分の目で見た人を信じる」
しばらくの沈黙の後、
ヴァルガスは踵を返した。
「……いずれ、後悔するだろう」
去り際、低く呟く。
ギルドに、息が戻る。
「……大丈夫ですか?」
思わず、そう聞いた。
リゼアは、肩をすくめる。
「英雄に睨まれたくらいで、剣は鈍らないわ」
そして、俺を見る。
「それに」
少しだけ、柔らかく笑った。
「あんたを守るって、決めたから」
胸が、強く鳴った。
この人は、本気だ。
俺が前に出なくても、
価値があると、信じてくれている。
――英雄の影が、確かに忍び寄っている。
それでも今は、
俺の背中を預けられる人が、ここにいた。
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