定年オヤジ、剣より会議で世界を救う~元課長、ダンジョンでは最年長です~

塩塚 和人

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第8話 「課長は前に出ない。後ろで全部守る」


ダンジョンの空気が、明らかに変わっていた。
浅層と呼ばれていた区域を越え、通路は狭く、曲がりくねっている。

「……ここから先、雰囲気違いますね」
マキオが小さく言った。

「油断しないで」
ミサが前を見据える。

ユウトは無言だった。
いつもの軽口がない。

久我恒一は、三人の背中を一歩下がった位置から見ていた。

――いい距離だ。

以前なら、彼らは互いに前へ出ようとしていた。
今は、それぞれの役割を理解している。

「課長」
ユウトが、振り返らずに言った。
「ここ、どう動きます?」

恒一は、即答しなかった。
少しだけ、間を置く。

「君たちで、考えてみてください」

三人が、同時に動きを止めた。

「……俺が前で、索敵」
ユウトが言う。

「後ろは私が見る」
ミサが続く。

「回復と連絡は僕」
マキオがまとめる。

恒一は、静かにうなずいた。

「いいですね。
 私は後方で、全体を見ます」

「課長、前に来ないんですか?」
ユウトが少し驚いた声を出す。

「ええ」
恒一は笑った。
「前に出る人は、もういます」

その直後、罠が発動した。

床から突き出す杭。
ユウトが即座に跳び退く。

「今の、見えました?」

「ええ」
恒一は落ち着いて言った。
「回避、適切です」

ミサが、横から現れた魔物を迎え撃つ。
マキオは即座に回復を準備。

三人の動きは、無駄がなかった。

――育っている。

恒一は、そう実感した。

だが、奥から聞こえる音に、眉をひそめる。

「……足音が多い」

「複数来ます!」
マキオが叫ぶ。

「退路、確保」
恒一は即座に言った。
「無理に倒さない」

三人は、自然と後退しながら戦う。

その背後。
恒一は、壁に背を預け、通路全体を見渡していた。

【スキル《根回し》が発動しました】

視界の端に、情報が整理されていく。
敵の数、動線、逃げ道。

「右、狭い通路」
「左、開けている」

声を出さずとも、
三人は恒一の指示を理解したかのように動いた。

戦闘は、短時間で終わった。

「……はあ」
ユウトが息を吐く。
「課長、全然動いてないのに、
 なんでこんな安心感あるんですか」

「後ろが安定しているからです」
恒一は答えた。
「前に出る人は、背中を預けられる場所が必要です」

ミサが、ふっと口元を緩めた。

「……それ、強い」

さらに進むと、
別のパーティが立ち往生していた。

「通路、封鎖されてる!」
「挟まれた!」

状況は、かなり悪い。

「課長」
マキオが視線を向ける。

恒一は、即座に判断した。

「我々は、前に出ません」

ユウトが驚く。

「え、助けないんですか?」

「助けます」
恒一は訂正した。
「後ろから」

恒一は、壁の陰から声を張り上げた。

「そちら、右側の壁、崩れやすい!
 全員、後退してください!」

一瞬の戸惑いの後、
言われた通りに動いた冒険者たち。

次の瞬間、
魔物の突進で壁が崩れ、通路が開けた。

「今です!」
恒一が叫ぶ。

全員が、一斉に脱出した。

「……助かりました」
冒険者の一人が、深く頭を下げる。

恒一は、首を振った。

「判断したのは、あなた方です」

ユウトが、ぽつりと言った。

「課長、やっぱ前に出ないんですね」

「ええ」
恒一は静かに言った。
「前に出ると、後ろが見えなくなります」

ダンジョンの奥。
危険は増していく。

だが、
久我恒一は一歩も前に出ない。

その代わり、
全員の背中を、確かに守っていた。

(第8話・完)
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