10 / 10
第10話 氷の迷宮の夜明け
しおりを挟む目を開けると、光があった。
白でも蒼でもない、柔らかな色。
冷たさを伴わない空気が、ゆっくりと肺を満たす。
「……朝、か」
リオハは仰向けのまま、天井を見上げた。
そこにあったはずの氷はなく、代わりに淡い空が広がっている。
迷宮の最深部。
氷晶竜の王座があった場所。
だが、今はただの広間だった。
身体を起こそうとして、隣に視線を落とす。
「ノア……」
青い狼は、静かに横たわっていた。
胸が、わずかに上下している。
生きている。
それだけで、胸の奥が緩んだ。
右手を見る。
契約印は、薄く残っているが、以前のような強い輝きはない。
――終わった。
戦いも、試練も。
迷宮が、応えるように静かに震えた。
壁の氷が、音もなく崩れ落ちていく。
だが、崩壊ではない。
解けていく、という表現の方が正しかった。
光が差し込む。
それは、迷宮の外の朝日だった。
「出口……」
ノアが、ゆっくりと目を開く。
――生きている。
かすかな意識。
だが、確かな存在。
「無茶しすぎだ」
声が震えた。
ノアは、わずかに尾を動かす。
――選んだ。
それだけだった。
リオハは立ち上がり、ノアを抱え上げる。
以前よりも、少し軽くなった気がした。
歩き出すと、通路が自然に開いていく。
もう迷うことはない。
迷宮は、役目を終えたのだ。
外に出た瞬間、冷たい風が頬を打った。
だが、以前ほど厳しくは感じない。
雪原の向こうに、朝焼けが広がっている。
「……夜明けだな」
ノアが、空を見上げる。
――新しい、始まり。
その言葉に、否定はなかった。
振り返ると、氷晶の迷宮は、静かに佇んでいた。
だが、どこか違う。
威圧感がない。
ただ、そこにある遺構のようだ。
「もう、人を試すことはないのか」
答えは、返らない。
だが、それでいい。
迷宮は、選択を終えた。
遠くで、足音がした。
「……リオハ?」
振り向くと、エリシアが立っていた。
無事に脱出できたらしい。
「生きてたのね」
「ああ」
短い会話。
それだけで、十分だった。
「私は……記録する」
彼女は、迷宮を見つめながら言った。
「力じゃなく、選択の場所だったって」
「それが、真実だ」
エリシアは頷き、雪原の向こうへ歩き出す。
リオハは、ノアを地面に下ろした。
青い狼は、少しよろめきながらも立ち上がる。
「これから、どうする」
問いかけは、独り言に近かった。
ノアが、リオハを見上げる。
――共に、歩く。
その答えに、迷いはない。
「……ああ」
剣を背に、歩き出す。
目的地は、まだ決めていない。
だが、それでいい。
氷晶の迷宮の上に、完全な朝日が昇る。
夜は、確かに終わった。
そして、二つの影は、新しい世界へと進んでいった。
――完――
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる