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「フォフォフォ。待っておったぞい」
「……………誰?」

柳田は突然現れた声の主を見た。

「ワシは年寄りじゃ」
「なるほど。確かにそうらしいな」

お爺さんは真っ白で長いヒゲを垂らして笑っている。

「名前は何なの?」
「ワシか?名前は……………、『みんなのじいちゃん』じゃ」

名前がないのならそう言えば良いのに、どうして意地を張ってんだか。

「じゃあ、みんなのじいちゃん?俺はどうしてこんな所にいるんだ?」
「たまたまじゃな。お主の夢がどういうわけかワシがいる所につながったんじゃ」
「ふーん。じゃ、いずれこの夢は終わるのか?」
「そういうことじゃ」
「じゃ、その時を待つか…」

俺はどっかりと腰を下ろす。
薄い青に囲まれたこの空間で、なぜだか俺は浮いているようだった。……まぁ、夢だからな。不思議なことがあってもおかしくはないか。

二人ともお互いに全て言い尽くしたというように黙ったまま時間が過ぎる。俺は夢の中だというのに大きなあくびをした。

「……おぉ、そうじゃ」
突然、みんなのじいちゃんが手を叩いた。

「いきなりどうした?」
「ワシの友達のお母さんの息子の友達が管理している世界がな、今ピンチなのじゃ」
「あれ?……それって、あんたのことか?」
「ワシはそんなこと言っとらん!!」

怒鳴られた。何だか迫力があって、俺は身をすくめる。

「じゃ、じゃあ何だよ……。そいつのピンチと、俺の状況になんの関係があるって言うんだ?」
「じゃから、お主は大至急その世界に行ってこなきゃならんのだ」
「無茶を言うな。ここは夢で、俺がたまたまここに紛れ込んだだけなんだろ?」
「ワシが本気を出せば、その世界に飛ばすことくらい簡単じゃ」

みんなのじいちゃんは、ほくほくと微笑む。

「でも、俺は別に………」
「行ってもらうぞ。本当に危ないのじゃ」
「どうして危ないんだよ」
「管理がしっかりされとらんかったせいじゃ」

あんたのせいなのかよ。

「それで、俺が行ってどうなる」
「世界を救ってくれるんじゃろ?」
「………いつどこで誰がそのような発言をしたのか三十文字以内で答えろ」

俺が睨むと、ぷいと顔を背けるみんなのじいちゃん。

「だ、大丈夫じゃよ。時間はちゃんと止めてあるんじゃから」
「『時間を止めてある』?………最初から俺にこの話を持ちかけるつもりだったという認識でいいか?」
「むぅ………。何でもかんでも詮索するのは嫌われるからやめといた方がいいぞ」
「そういうことなんだな?」
「………」

ったく、どうして俺が選ばれたんだか。

「みんなのじいちゃん。そのことはもう決定事項なんだな?」
「………その通りじゃ」
「その世界で死んだらどうなるかだけ教えてくれよ。夢から覚めるのか?」
「そう、かもしれないなぁ」

スッとみんなのじいちゃんの姿が薄くなった。
もう時間なのか?!ちょっと待てよ!!

「『かもしれない』って何?!どういうこと?おい、ちょっと、み…………」
言い終わる前に、周りが真っ白に輝いて、俺の意識を飲み込んでいった。
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