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「おい、てめぇ」
「な、何だよ」
「俺のは冤罪だぞ!お前のせいで!!」
「俺も身に覚えのない罪を着せられてんだ!一緒だよ!!」
「ひゃあ、面白そうだったから助けてみたんだけど、これからはずっとあの人数を相手にしなきゃいけなくなったかもしんねぇな」
「何度も言うようだが、俺のせいじゃねぇぞ」
「あ、そうだ!テメェ、なんか『カレン』って奴がどうとか言ってたな!おい、キョウカ!調べてくれ!!」

コソがそう言うと、キョウカは小さく頷いて、高速で指を動かし始めた。
刹那、顔を覆い尽くしている前髪に隙間ができた。

「……あれ、キョウカって、男っぽい顔してるな」
「ん?お前もそう思うのか?」
「ってことは、コソも??」
「あぁ。でもこいつの前でそれは禁句……グェッ!」

コソの顔が視界から消えた。
何があったのか理解する前に、俺も殴りつけられる。

「フヌッ!」
今、グーパンチだったぞ!無防備なお顔に、グー!

「…こういう風に、とても怒るので、言わないであげるべきだ」
「……なるほど」
「手足は細くて体は真っ白だろ?ほぼほぼ女の子………、いや、ごめんなさい!心も体もすっかり完全に女の子なんだよね!!!拳を下ろすんだ!早まるな!俺を殴るたびに、その綺麗な手に下水がつくんだぞ!!」
『今すぐ洗ってきて!』
「わ、分かったよ。おい、お前も行くぞ!ほら!!」

コソに引きずられるように、風呂に連行された。
風呂場と言っても、同じ部屋に備えつけてある小さなモノだ。

「唇、切らなかったか?」
「分からない………」
サッとカーテンを閉めて、カタカタと震えながらコショコショ話をする。

「もし切ったら厄介だぞ。口内炎になったら痛いんだ」
「だろうね」

シャワーの蛇口をひねると、サァサァと水が降ってきた。

「ひょー!生き返る!!」
「ホントだよ!……ってことは、俺達、今まで死んでたのかな」
「『生き返る』っていうのはだな、喩えだよ!た、と、え!今までのキツい状況を改善した時に発する言葉だ!!」
「ほぅ、分かりやすいですな」
「へっへ!」

水はすぐにどす黒くなって排水溝へと直行する。
それから、お湯をドボドボと溜めていく。

「そうだ!俺はコソ、それからあいつはキョウカだろ?でもさ、俺、まだお前の名前を聞いてなかったんだよな!隠さずにそろそろ教えてくれよ!!キョウカには先を越されちまったけど」
「いや、隠してるつもりはなかったんだけどな。ん?キョウカは俺の名前知ってんの?」
「だって指名手配されてんだろ?顔写真と名前をセットで覚えられてるに決まってんじゃねぇか」
「あ、そっか。………………」
「どうした?」

顔写真。俺が、カレンに踏みつけられてる動画の一コマを抜粋したんだろうか。

「いや、ちょっと考え事してたのさ」
「ふーん。…で、名前はなんて言うんだ?」
「ピーマン」
「ピーマン?!……あぁ、そりゃ協会登録ネームだろ?指名手配には、もちろん本名が使われるんだぜ?だって、俺とかキョウカみたいに登録してねぇ奴もいるんだから」
「そっか。でも、多分ピーマンだと思う」
「どうし………、まさかお前!移転者か?!」
「お、当たり」
そう。移転者は戸籍もないのだ。

「お前もか!!実は俺もなんだよ!」
「え」
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