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でも。

「…俺、やっぱ行ってくる」
「バカ!殺されるかもしれねぇんだぞ!しかも下手すりゃここの場所まで知られて俺も捕まっちまう!!」
「ツテがある」
「ツテ?」
「そう」

俺は強く頷いた。

「誰だ?ツテってのは。…………まさか、カレンっていう奴か?!あいつ敵だろ??!」
「カレンじゃねぇよ。あいつは俺達が殺人したっていう根も葉もないことを捏造した犯人だ」
「はぁ?!最初から黒幕は分かってたんだな?じゃ、どうしてもっと早くに教えてくれなかったんだ!!」
「言っても仕方ねぇだろ?!俺達は逃げてたんだから」
「いや、死んでも俺はそいつをぶん殴ってやる」
「そういや、キョウカはカレンのこと検索したんだろ?何か分かったか?」

聞いてみると、キョウカはパソコンの画面を見つめたまま首を横に振った。

「え、お前でも調べられないくらいの人物なのか?」
「ちょっと待って。なんか引っかかる」

カレン、カレン、カレ……。

「……………」
「どうかしたか?」
「すまん」
「は?」
「カレンっていうのは、俺がつけたアダ名だった」
「……………」
「だってさ!ここの世界の奴らって、みんな名前を持ってなかったりするんだもん!」
「いや、隠してんだよ。それが一般的なんだ」
「どうしてだよ!」
「バラしたくないんだろ。……もう許してやるから、そのカレンの外見の特徴を話せ。簡潔にな」
「え、っとな。お嬢様ってみんなには言われてたっけか。背は小さくて、態度はデカい。服はさして派手じゃなかったが、とりあえず自分はみんなより偉いって考えてるような奴だったと思う」

タンタンッ
俺が言い終わるのと同時に、キョウカが打ち込み終えた。は、早いな。

「お、こいつか?」
「……………そうだ」
一瞬で候補者が絞れたのにも驚きだが、それが当たっているってのが、また怖い。

「…ふん。前川 楓って言うのか」
「こいつの父親がスゲェらしいんだけど」
「そうだな。こいつの父親はヤベェ。ここら辺の社会を裏から操ってるくらいの力があるらしいぞ。資産は莫大。確認できるだけでも351兆………」
「兆?!」
「……………無茶苦茶だ」

コソは口を開けたまま固まった。

「嘘だろ。カレンってそんな奴の娘だったのか………」
「表ではそんなに知られてないらしいがな。父親に関して言えば、写真さえ入手できないらしい」
「………………」
「後、ミスターエックスを倒しちゃおうの会の資金を提供してる」
「……そうか」

改めてその大きさを感じる。

「協会登録者の個人情報は全て、奴も握ってんだろうな。全国の8割以上だぜ」
「残りの2割も、簡単にゲットできるんじゃないか?」
「だろうな。よくそんな奴に狙われるようなことをしたなぁ」
「はは。娘を警察に突き出しちまった」
「ふぇ?!」

俺はコソに簡単ないきさつを説明する。

「ひひひひひ!そりゃあ良い!だからあんなに大掛かりなことされてるわけか!!」
「殺されるかな?」
「明日を越せたら大したもんだな」

キョウカの手の動きが一段とスピードを増した。
必死に何かを操作しているようなのだが、俺には意味を理解することもできない。

「お、おい、なんかマズいか……?」
「国の重要人物に手を出した時点でマズいってことに気づくべきだな」
『ここが狙われてる。逃げて』

キョウカが画面の右斜め上にそう表示した。相変わらず手は動き続けている。

「ちっ、どうするよ。外に出ても無駄だろうし」
『大量の警察官が取り囲んでる。小型ミサイルは阻止した。これ以上は無理』
「………………」

ミ、サ、イ、ル?
俺とコソはサッと後ろに逃げて風呂場に隠れた。

「ちょっと聞いたかよ!ミサイルだとよ!!」
「銃を軽く超えちまったな!!!今度はなんだ、人工衛星から攻撃してくるのか?」
「えん、縁起でもねぇこと言うな!あり得るから!!」
「その時はキョウカに守ってもらおう………」

バリン!と窓が割れた。ギュッと俺とコソはくっつく。
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