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「……」
「ほんっとに凄いんですよ!それ!!ほぼ100%の音をシャットアウトしてくれてですね、すぐそばで爆発があった時も、音は聞こえなかったんです!」
「いや、ま、そりゃ凄いけどさ……」
「でしょ?!この耳栓もカズオ様のチョイスなんですよ。さすがですよねー」

カズオ、お前はあまりに多くのことを知り過ぎた。……なーんて敵に言われる前に『ウンチク』で倒すのだろう。

「……で、これからどこに行くんだ?」
コソが聞いた。俺も知りたかったことだ。

「そうだな。こいつらが起きるまで、そう時間はないはずだから、とりあえず離れておくべきだろうな。ここからできるだけ遠くに行くんだ」
「いえ、もし彼らがまた襲って来たら、私がミドリムシの有用性についてお話しします」
「それは心強い」

俺達はゆっくり歩きながら話をする。さっきまで考えられなかったことだ。

カタ、カタカタッ、カッ
キョウカがコンピュータを開いてキーボードを叩こうとしているのだが、左手一本で支えながら打っているので、不安定でやりにくそうだった。俺がさりげなく近づいてその両端を持つと、彼女はちょっと俺を見て、また操作を始めた。

「でも、このまま逃げる追いかけられるを延々繰り返すのは嫌だな。どっかで決着をつけないと」
コソが意気込んでいる。

「前川家の貯金がゼロになったら警察も追いかけられなくなるとは思うがな。何十年先のことになるやら」協会長は笑って言った。

「前川家を知ってるのか?」
「うん。前川家と言うより、今は前川 宏が多くの富を保有しているんだけどね。踏み入った仕事をしている人なら誰でも知っている人物だ」
「偶然ピーマン様が彼の娘と接触し、その子を大変怒らせたんだそうです。なだめようとしたんですが、『ここの協会も潰してやる!』と叫んで走って行っちゃいまして………」
「ったく、その時にお前がもっと早く私に報告をしていたら、そいつを人質に取れたのに」

コツコツ、と肩をつつかれた。
見てみると、キョウカがパソコンの画面を指差している。

『「ウンチク」が届かない遠距離射撃班がここに照準を定めている。モコモコの耳あてを装着した特殊部隊が接近中。危険』

「ねぇ!!ここもヤバいらしいよ!!!」
「ん?それはどういう……」
コソが俺に説明を求めようとした時、協会長が全員を突き飛ばした。
爆音が響き、道路が炎上する。

「ちっ、休ませてはくれないみたいだな!」
彼女はあんなに話していながら警戒を怠っていなかったらしく、黒い炎がまだ体にとぐろを巻いていたから反応できたのだ。

「行くぞ!真っ直ぐ突っ走れ!!」
せっかく団欒の時間を設けられたと思ったのに。
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