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「…こいつとお前は親しい仲だったのは本当らしいな……」
「協会長、あんまり本気にするなよ。こいつと俺は今日会ったばっかなんだ。協会に行く前に、ちょびっと」
「『ちょびっと』?!……兄弟は分かってねぇなぁ。俺と兄弟が出会うことは、生まれた時、いや、それ以前から決まってたんだよ!とんでもなくでっけぇことだぜ」

兄弟は口笛で乾いた音を奏でる。酒の臭いが届いたのか、協会長は顔をしかめた。

「……で、どうしてセナを担いできたんだ?お前は」
コソが後ろから声をかけてくる。もう痛みは落ち着いたらしい。

「セナ?………あぁ、あのよく寝る奴か?羨ましいくらい良い寝顔してるよなぁ!ハッハッハッハッ!」
「え、あれって寝てたの??兄弟が倒したんじゃなくて?」
「どうして俺があいつを倒さなきゃいけねぇんだ?………兄弟、俺のことそんなに信用してくれてねぇだろ」

首を縦に何度も振った。信用なんてできるわけがない。

「あいつから俺に頼んできたんだぜ?『私を連れて行ってくれ』ってな感じでさ」
「嘘だ………」
「本当だよ。あいつは俺にベタ惚れなのさ」

だとしたら、好みのタイプはかなり変わっている。

「それより、どうしてお前はあいつの術にかからないんだ」
「術?……あー、みんなをなぎ倒していく、あれか?俺には外してくれてんじゃねーの?」
「いや、それはない」
「どうしてだよ」
「そういう技だからだっ!」

協会長は兄弟の胸ぐらを掴んだ。すると、簡単に服が破けてしまう。

「あぁ!俺のオキニが!!」
「……お前はこの服しか持ってないだろうよ…」
思わず声が漏れた。破ってしまった協会長に同情する。『身体強化』とか関係なく、古かったから破れたのだ。そもそも、とんでもなく安物の服なのだろうし。

「こっ、こいつのスキルは『惰眠」と言ってだな、凄く強力なモノだ。ある程度力の調節はできるらしいが、ずっと至近距離にいたお前に効果がないなど、あり得ないことだ!」
「あー、俺、睡眠には足りてっからな。全然大丈夫だぜ?……‥って言うより、その怖い顔やめてくれよぉ。寿命縮まるぜ?」
「睡眠が足りていたからだと?!じゃあなんだ、お前はここら一帯に倒れている全員が睡眠不足だったと言いたいのか!」
「ちげえよ。俺は有り余るほど寝てただけだ」
「どうしてそんなことが言えるっ!!」

協会長の炎が兄弟の周りを取り巻く。熱くないから良いんだけど、ちょっとでも間違えたらペチャンコになるよね。
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