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「じゃ、実質、弘の組織に強い人間は残ってないのか?」
「そうねぇ。もう目立った戦績を持つ者はいないと思うよ。みんな銃の扱いは上手いけど」

俺はシメシメと笑った。これで安全だ。一日でずいぶん戦力を飛躍させたなぁ。

「…あの、174って、『枕元の殺し屋』って呼ばれてるらしいけど、その、人を殺したことは……」
ナズハがおずおずと聞いた。
「ないに決まってるよぉ。でも、私あの名前いいと思うんだー」
いかつそうな二つ名ではある。

「じゃ、羽をつけて降りてきたのはどうなってたんだ?お前の能力じゃねぇのか?」
「あれは私のお友達二人がやってくれたんだ。『飛翔』って技を『複製譲渡』の術で私にくれたらあんな感じになったの」
「…………そいつ、どこにいるんだ?!その、特に『複製譲渡』ができる奴!!」
「えっとね、今は家かな?」

弘に捕まるんじゃないだろうか。
とっくに白羽の矢は立てられてるはずだ。

俺が考えていると、いつの間にかすぐそばに乗り物が近づいてきていた。
キキキィー
タイヤが擦れて甲高く歌い上げる。バスだ。

「うわっ!……何これ」
「えっと、ミスターエックス討伐隊を早めに始動しようかと思って」協会長が照れたように笑う。
「は?」
「だって、今ピンチなんでしょ?Sランクは全員揃ってることだし、みんなでもう行っちゃおうってね」
……かなりザックリしてるな。

運転手が降りてきて静かにお辞儀をした。

「このバスは白神山地まで一直線に進んでくれるよ!だから今から行けば…………、うーん、明日出発するよりかは早くに着けそう、かな?」
「だろうね」
遅くなったら事件だ。

「ささっ、乗り込むわよ。急がないと弘に先を越されちゃう」
「既に越されてるんじゃないか?」
「いやいやー、そんなことはないでしょ」
自信がありそうだが、どこに何の根拠があると言うんだろうか。

全員が乗り終えると、プシューと戸が閉まる。
そして、少し揺れて発車を告げるアナウンスが響いた。

『えー、ミスターエックス討伐隊の皆様、今日はご乗車頂きましてありがとうございます。安全運転を心がけますので、安心して白神山地へのツアーをお楽しみ下さい………』

「…え、これツアーなの?」
「安かったからこれを貸切にしちゃった。1000円で白神山地に届けてくれるのよ!」
「でも、白神さん家って遠いんだろ?」
「そうよ。何てったって青森県から秋田県にまたがる山なんだからね。北のもっと北って感じよ」
「ん?白神さんって県境に家を建ててんのか?」
「は?白神さん?」
「え、だって『県をまたぐ』って………」
「どういうこと?」
「白神さん……………」
「……あっ、もしかしてなんだけど、『白神山地』って、地名よ。おっきい山。知って……」
「嘘………」
「へ?」

俺はシートベルトを閉めるのも忘れて口を開けた。

「白神山地知らなかったの?あ、転移者だから………」
「いや、俺のいた世界にもあったぜ、その白神山地っての」
コソが俺を向いた。

「…知らねぇのか?まさか、俺とお前じゃ元の世界が違うとか?」
「いや………俺…………」

みんなを見回した。兄弟だけ顔が青ざめている。やっぱり俺と一緒で知らなかったんだ。

「…どうした?」コウキが神妙な顔で聞く。もう隠しきれなさそうだ。

俺は目をつぶって告白した。
「………学校の修学旅行で行った京都奈良大阪沖縄以外のことはよく知らねぇんだっ!!!」
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