秋によろしく

Nick Robertson

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山道を降りていきます。
ジャックとチミィが初めてここへ登った時、山小屋があったくらいですから、道も舗装されています。細くて、草はいっぱい散らばっていたりしているのは気になりません。むしろ良いことです。他の人々は来ようと思わないでしょうからね。

ジャックは鼻をすんすんと鳴らしました。
夏の森の、この酸っぱい香りは不思議です。
ツン、と突くようでありながら、不快感を伴いません。

けれど、二人はちょっと急ぎ足でした。
中途半端な所で止まったら、たちまち蚊に刺されてしまいそうだからです。

「…街ってさ。俺、お金あってこその場所だと思ってるんだよね。」
「そんなこともないわよ。見てるだけで楽しかったりだとか。」
「ちぇ。これだから女子はヨゥ。」
「それに、自販機とかの下を覗いてればお金落ちてるかも。」
「ぷっ。」

チミィはそこらの女子とはわけが違うのです。ちゃんと、こういう思考もできるのでした。

「だけどさぁ、街なんか雨の日にも行けたんじゃねぇか?」
「だってほら、この頃の雨って、よく雷を連れてくるじゃないの。」
「う~ん。そうだけど…」
「雨に濡れた街も趣はあると思うわよ。でも、店に人数(ヒトカズ)は少ないでしょうね。」

それを聞いて、ジャックは驚きました。
「はぁ?まさかお前、人がたくさんいるのが好きなのか?都会っ子だぞ、そういうのは。」
「どこが都会っ子なのよ。」
「もっとこう、植物好きなのが山に住まう人間の掟だ。」

そう言いながら、ジャックは考えていました。
(チミィはこの街に浮かれてやがるんだな。気持ちは分かるけど。)

こんなに家々が並んでいる。それだけで十分あり得ないことなのに、おいしい食べ物まで手に入るかもしれないのですから、街になるべく入り浸りたいのはジャックにも分かります。

「見えてきたよ!あそこだっ!」
チミィが一段とスピードを上げました。
そこで、ジャックは「コケるなよ。」と声をかけておきます。

それを聞き取れたかどうか、けれど、チミィは石ころにつまずくこともなく、山を下りきったようでした。
ジャックは、さっきと変わらぬスピードで、ゆっくり到着しました。

「ね!あっちとか、行ってみない?」
「うん。行ってきたら?今回は別行動でさ。」
「それはやだなぁ。行こうよ」
「…じゃ、オッケー」

ジャックは後ろを振り返って山を見ました。
木の影がゆらゆら揺れて、何だか……、手を振っているようには見えなかったけれど、強く、印象に残ったのです。
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