Nick Robertson

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数字

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僕は彼の言ったことに理解を示すことができなかった。
彼は「もう一度言うよ」といかにも真面目な顔をして喋るのだ。
「数字になりたかったの」と。

「つまり」僕は人差し指をピンと上に立てた。「…君は、数字、1とか2とか、3とかになりたかったんだね?」
「その通り」彼はそれを認めて、晴れ晴れとした顔で「でも、もう諦めちゃったんだ」と語る。

「どうして?」
「だって、それは、きっと数字になんてなれっこないから」

彼は自分で納得するかのように何度も頷いた。
やがて、落ち着いてきたのか、彼は僕にブランコで遊ぼう、と誘ってくる。

僕はそれに賛成してブランコに座って地面を斜めに蹴り飛ばした。
彼はその横で立ち漕ぎをしている。
……なんだ、立ち漕ぎをやるんだったら二人乗りができたのにな。
でも、滑り台やジャングルジムなんかじゃなくて、この遊具を選んだことには感心した。二人で落ち着かない時に、もってこいなんだ、ブランコっていうのは。

彼のそれは、僕のなんかよりずっと大らかに、ゆっくりと揺れている。

「…数字ってね」また、喋り始めた。
「うん」
「ひとつなの」
「ひとつ?」

僕は隣の彼を仰ぎ見る。でも、視線がぶつかることはない。彼は、もっと遠く、多分、空の向こうを眺めているから。

「そう。ひとつ。1は1、2は2」
「そりゃそうだ」

僕が笑うと、初めて彼はキョトンとこっちを向いた。

「でも、ほら、君はひとつじゃないでしょ?」
「んー?」
「君は、君の母さんからしたら『子供』なわけで、僕からしたら『友達』で『優しい』、でも、きっと誰かは君のことを『嫌いな人』って思ってて」
「そう、かなぁ」
「分からないけど、君はひとつじゃないんだ」

いつの間にか、彼も座って漕いでいた。勢いをつけたらしゃがもう、って考えてたんだね。

「じゃあ」
僕は、まだよく分からなくて、チカチカしているけど、聞いてみた。「君は、一つになりたかったんだ」

「そう、そうなんだなぁ」
彼は、ポン、とブランコから飛び降りた。

そして、こっちを向いたまま、「でも、それはできなかったんだ」と悲しげに笑う。
彼のいなくなったブランコは、ちょっとバランスを崩したまま、ふらふらと前後していた。
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