Nick Robertson

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聞いたことのない音楽がチロチロとピアノから鳴っていた。
俺はワインを片手に、隣の男へそれとなく「あの曲を知っているか」と尋ねる。

「ああ、知ってるとも。カベルンが作ったメローネの休日ってやつさ」
答えられても、やはり俺には分からなかった。思い当たるものがない。まぁ、常々音楽に接してるわけでもないから、こういうこともあって当然だろう。しかし、どこかこの曲には心を引っ掛けられるようだった。

隣の男は、そんな俺の苦い表情に気づいたのだろう。
「ドミニカで発表されたんだ」と続ける。

「カベルンはね、前衛音楽をベースにしてるんだ。だから、ちょっと変わった風に聴こえるかもしれないね」
「なるほど、前衛音楽か」

前衛と名のつくものは、大抵ヘンテコで、極めたらみんなにちやほやされるものだ。その域に達するのがどれほど難しいのか、俺には測りかねる。

カベルンって奴は、どうなんだろうか。前衛音楽を下地にしているということは、途中で挫折して、折衷の方法を取ったということなのかな。

ぐいっとワインを飲み干す。
隣にいた男は、いつしか別の人間と話を始めていた。
ーー

小さなパーティを終えて、外に出てみると、赤い夕日が眩しかった。
その時、ふと、今日はレコード屋に寄ろうと、俺は決めた。
なるべく、古くて、特有の臭さがある店がいい。

今時そんなの、ないとは思うけど。
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