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読み聞かせ
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適当な一冊を脇に抱えて歩くと、いつもより騒々しい喋り声がした。
まさかと思って覗いてみると、子供達がたくさん集まっている。
こんなに読み聞かせの時間に人が集まったことは初めてだ。
自然と笑顔になる。
これでこそ読み聞かせをする甲斐があるというものだ。
聞き手がいない読み聞かせなんて寂しいことこの上ない。
ピンク色の背もたれのない小さな椅子に座ると子供達は一斉にこちらを見た。
「みんなよく来てくれたね!短い時間だけど楽しんでね。じゃあ今日はこの本を読みます。『一つ目の巨人のくらし』」
厚い表紙をめくって、上から覗き見る。
絵がほとんどの部分を占めているが、私はひたすらにその下の短い文に目を通す。
「この世界には肌がカラフルで背が高く目が一つの大きな人がいます。それがサイクロプスです」
ページを繰る。
「…遠く離れた砂漠の向こう側にいるので、ほとんどの人は見ることができません。彼らは踊りが大好きです。毎日のように歌を歌い踊っているのです。食べ物も大きいです。今日は、じゃがいもに玉ねぎ、それに牛乳を入れてシチューを作っています。グッズグッズグッズグッズ。大きな音で湯が煮え始めるとサイクロプスたちはペロリと舌なめずりをして待っています。それからすぐ出来上が…」
「そんなのいるはずないよ」
先ほどから棚を背にしてぐにぐにと体を前後に揺らしていた男の子がそう言った。
私は本から顔を起こす。
「だってそんなに大きい食べ物あるんだったら、人間と貿易して寄越してくれりゃいいじゃないか。そしたら世界で飢えてる人なんかいなくなるのに」
出たな、こういう中途半端なマセガキ!
私は心の中で毒づいた。なんでよりによってこんな人が多い時にこういうのが紛れ込むんだろう。
態度がでかく遠慮というものを知らないヤツ。
私が構わずもう一度先ほどの文を読み返そうとすると、その子ははまだ「おかしいじゃん。なんで砂漠の向こうにいるからって人が会えないの。ニュースでも見たことないよ」と言っている。
クラクラした。
「ニュースでもないってことは、それ嘘なんだよ。いないんだ。全部作り話なんだよ。こんなのさ」
「作り話でも……。作り話でダメかな」
私は笑みを崩さず、なるべく優しい声を努めて出す。
すると男の子はきょとんとした顔になって、「駄目に決まってんじゃん。だってさっき一つ目の巨人がいますって言ったんでしょ。そうやって言ってるのにそんな、嘘じゃんか。騙されたらどうすんの。まあ俺はそんな騙されることなんてないけどさ」と威張る。
私はめいいっぱい口角を上げた。
「そっかそっか。そういう君はもう騙されないんだから、じゃあこの話を聞かなくてもいいんじゃないかな」
言うと男の子一瞬黙って、「じゃあ分かった。飽きたし帰るわ。みんな行こっ」と立ち上がる。
すると先ほどまで私の話を聞いていた何人もの子達が「ゆうくんもう行くの」と言って追いかけていく。
ガキ大将だったのだ。
小さい子供たちは、こういうちょっと知識のある拗ねた性格の子をカッコいいと勘違いするんだろう。
みんなが去ってしまった読み聞かせの場には残された二人の子が、今しがた出ていった子たちの姿を体育座りをしたまま目で追っている。
私は息を吸って「じゃあシチューを作って…」と言い始めた。
が、声はどうしても萎んでしまっていた。
まさかと思って覗いてみると、子供達がたくさん集まっている。
こんなに読み聞かせの時間に人が集まったことは初めてだ。
自然と笑顔になる。
これでこそ読み聞かせをする甲斐があるというものだ。
聞き手がいない読み聞かせなんて寂しいことこの上ない。
ピンク色の背もたれのない小さな椅子に座ると子供達は一斉にこちらを見た。
「みんなよく来てくれたね!短い時間だけど楽しんでね。じゃあ今日はこの本を読みます。『一つ目の巨人のくらし』」
厚い表紙をめくって、上から覗き見る。
絵がほとんどの部分を占めているが、私はひたすらにその下の短い文に目を通す。
「この世界には肌がカラフルで背が高く目が一つの大きな人がいます。それがサイクロプスです」
ページを繰る。
「…遠く離れた砂漠の向こう側にいるので、ほとんどの人は見ることができません。彼らは踊りが大好きです。毎日のように歌を歌い踊っているのです。食べ物も大きいです。今日は、じゃがいもに玉ねぎ、それに牛乳を入れてシチューを作っています。グッズグッズグッズグッズ。大きな音で湯が煮え始めるとサイクロプスたちはペロリと舌なめずりをして待っています。それからすぐ出来上が…」
「そんなのいるはずないよ」
先ほどから棚を背にしてぐにぐにと体を前後に揺らしていた男の子がそう言った。
私は本から顔を起こす。
「だってそんなに大きい食べ物あるんだったら、人間と貿易して寄越してくれりゃいいじゃないか。そしたら世界で飢えてる人なんかいなくなるのに」
出たな、こういう中途半端なマセガキ!
私は心の中で毒づいた。なんでよりによってこんな人が多い時にこういうのが紛れ込むんだろう。
態度がでかく遠慮というものを知らないヤツ。
私が構わずもう一度先ほどの文を読み返そうとすると、その子ははまだ「おかしいじゃん。なんで砂漠の向こうにいるからって人が会えないの。ニュースでも見たことないよ」と言っている。
クラクラした。
「ニュースでもないってことは、それ嘘なんだよ。いないんだ。全部作り話なんだよ。こんなのさ」
「作り話でも……。作り話でダメかな」
私は笑みを崩さず、なるべく優しい声を努めて出す。
すると男の子はきょとんとした顔になって、「駄目に決まってんじゃん。だってさっき一つ目の巨人がいますって言ったんでしょ。そうやって言ってるのにそんな、嘘じゃんか。騙されたらどうすんの。まあ俺はそんな騙されることなんてないけどさ」と威張る。
私はめいいっぱい口角を上げた。
「そっかそっか。そういう君はもう騙されないんだから、じゃあこの話を聞かなくてもいいんじゃないかな」
言うと男の子一瞬黙って、「じゃあ分かった。飽きたし帰るわ。みんな行こっ」と立ち上がる。
すると先ほどまで私の話を聞いていた何人もの子達が「ゆうくんもう行くの」と言って追いかけていく。
ガキ大将だったのだ。
小さい子供たちは、こういうちょっと知識のある拗ねた性格の子をカッコいいと勘違いするんだろう。
みんなが去ってしまった読み聞かせの場には残された二人の子が、今しがた出ていった子たちの姿を体育座りをしたまま目で追っている。
私は息を吸って「じゃあシチューを作って…」と言い始めた。
が、声はどうしても萎んでしまっていた。
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