苦悩する日々

Nick Robertson

文字の大きさ
上 下
60 / 87

特別な場所 1

しおりを挟む
「…何なんだっ、これはっ!!」



ある倉庫の片隅にて。

駆けつけてきた警察は絶句した。

ずっと昔に役目を終え、建設業者の手元を離れて使われなくなった、埃だらけのその建物にあったのは、直方体の箱。業務用のコピー機のようなサイズだ。



真っ黒に色付けられたそれは、一見しただけでは、あたりの闇に混じっているようで、さして重要な意味は持たないようである。しかし、懐中電灯に照らされた時に覚える感情としたら……、ちょっと綺麗過ぎる。最近ここに持って来られたばかりといった風で、目立った傷一つなく、黒塗りが光っていることからしても、場違いな、異質な感じがする。



一人の警察が後ろにいるメンバーに頷きかけて、そこへにじり寄る。沈黙の中、靴がコンクリートの床を滑る音がくっきり聞こえた。



その警察官は、先程帽子ににくっついた蜘蛛の巣を払いながら、手袋をはめたままその箱にそっと触れる。

熱い。ブーン、という音もかすかに聞こえる。



「恐らく中には機械が入っており、それは現在も稼働しているようです」

彼はそう報告した。



「気味が悪いな。まさかその機械の中に…」

「そんなことはないでしょう。マスク越しとは言え、強烈な異臭というのもしませんし」



自分を元気づけるように、その男は否定した。それでも、中身は気になる。いや、気にならずとも、調べなければならないだろう。ほぼ絶対に、手がかりはあるはずなのだから。



「蓋はないのか?」

「えーと、ちょっと待ってくださいよ……」



電灯で照らしながら、ゆっくり彼は箱の周りを周っていく。



「んーと、なさそうなのか、な…?」

呟きつつ、懐中電灯は丹念に上から下へその箱を映し出す。



「…あっ、ありますあります!ここにそれっぽい隙間がっ!」

「おぉ、見つかったか」



前側から見ても分からないが、背面に、四角い枠があった。鍵も何もなく、はめ込まれているだけだが、これを外すと中が見えるようになっているらしい。



「…どう、外れそう?」

「んー、力技でゴリゴリやってみたら、どう………、いやー、難しいですか、ね……」

「無理して傷を入れるようなことはやめてくれよ。一旦出よう。…それっ、写真撮ってくれ」

「はいはぁい」



ひょいひょいと移動しながら、箱の全体を写していく。真横から、真上から。俯瞰した位置からなど。だが、シャッター音が鳴らないカメラらしく、いまいち撮ったような気はしない。



一通りそれが終わったので、ゾロゾロと出て行く。

やはりこの工場が関係している。ここいらはもうじき黄色いテープで囲まれることになるだろう。
しおりを挟む

処理中です...