苦悩する日々

Nick Robertson

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「如月さんは?陰口言われたりしてたの?」



K,Iさんに聞かれて、私は首を横に振った。

バックミラー越しに目が合う。



「あっ、いえ、私も特には。ただ……」



途中で黙り込んでしまう。

頭の中をぐるっと回してみると、真っ先に思い浮かべられることは、確かにあるのだ。



それは、いつだったか、私が早起きをした日。

4時とか5時だとか、そんな生半可な早起きじゃなかったと思う。多分、2時前だ。



真っ暗だったんだけど、何故だか目が覚めたんだから仕方ない。

私はトボトボ歩いて洗面所に向かおうとしてた。



そしたら、コソコソ声がしたから、数歩で止まってしまう。

両親が話してたんだ。



「………だったってな。……、ところで、まゆは最近どんな感じだ?」

父の声。

急に私の話題になったから、ちょっとドキッとした。



「どうって…、変わらないわよ。別に」

母。



「まぁ、そうだな。急に性格が豹変するわけもないか」

「ええ。まゆはやっぱりまゆね。陰が薄いと言うか」

「陰、ねぇ。大人しいってのは良いと思うんだけど……」

「静か過ぎなのよ。グイグイ自分の意見を言ってこないから、扱いやすいけど不気味な感じもするわよ」

「ははは。俺もまゆとはあまり喋らないなぁ。こっちから話しかけないと応えないんだから」

「しかも『はい』か『いいえ』とかだけ言って、そこで会話が途切れちゃうのよね」

「コミュニケーションを取るのが下手なんだろうなぁ」

「………」

「………」



後ずさりして、部屋に戻った。

ベッドの縁に、ペタンと腰を下ろす。





悔しかったわけでもない。

悲しくも思わなかった。



むしろ感激したくらいだ。

二人とも、私の性格について私に伝えた試しはないはずだ。

それなのに、こんなに自然に我が子への感想が口から流れ出てくるなんて。

人って、そういうものかもしれない、と、理解した。





「…」

私が黙り込んでいる間、K,Iさんは何も言葉を発しないで、じっと耳を傾けてくれていた。

それが心地いい。

心の中では何を考えているか分からないけど、それでも、この人は信頼できると、自分の勘が教えてくれている。



「ごめんなさい、話の途中でやめてしまって」

私が小声でボソボソ謝ると、「いいんだよ。気にすることないさ」と返してくれる。



それからもじっと、私は今まで出会ってきた人のことを思っていた。

どいつもこいつも、目立って悪い奴じゃなく、かと言って親身なわけもない。

等間隔の距離を、ずっと保っていた気がしてる。家族でさえ。



「」

と、強い視線を感じた。

隣に顔を向けると、やはり、ハルさんがすごく見つめてきてる。どうしたんだろう。



車のスピードは遅くなっていく。

K,Iさんは、「もう着くよ」と穏やかに話した。

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