ドラゴン使いを終えて

Nick Robertson

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家に着いても何もする気が起こらない。
いつもすぐそばにいたドラゴンには、会うことはおろか、遠くから見つめることさえできないのだ。
私は自分の家をぼんやり見渡した。
どこまでもどこまでも贈り物が並ぶ。

これ、どうしよう。
今までは、食べ物はドラゴンにあげればいくらでも食べてくれたし(本来は何も食べなくても生きれるそうだから、無理してたのかもしれないけれど)、その他の防具や槍なんかだって、欲しい人にあげればよかったけど…

めんどくさいなあ、ほんと、何もかも。
こんな時、先代のドラゴン使いはどうしたんだろう。
想像すらできない。
今までぬくぬくとドラゴンのそばで暮らしてきたのに、急に追い出されるようにしてこの家に戻ってくるなんて。

だいたい、冒険家達が身につける鎧とか剣とか贈ってくる人は何か勘違いしてる。
私はドラゴン使いであって、それ以外の何者でもないのに。
傷ついた冒険家達も癒したけど、魔獣だって助けてた。
そのみんなから食べ物とかお金とかを受け取ってたんだ…

プレゼント。
私はまたベッドに寝転んだまま横を見る。
贈り物?これが?使わないのに?
ゴミじゃないか。
誰かの好意によるものだって分かってたから、拒否することはなかったけれど。
何も言わなかったけれど。

私のことを強いって褒めた人も大勢いた。
でもそれは違う。
治癒魔法だって、移動する時だって、私はドラゴンに全てを任せてた。
私は何もしてなかったのに。
みんなドラゴンを見れないから……

私はむっくり起き上がった。
これじゃあ、このままじゃあいけないよ。
なんとかしなくちゃ。

何か使えるものを…
でも、周りを取り囲むのは、食料と冒険家用の道具ばかり。
立て掛けられた剣の一つに触れる。
赤茶に錆び付いていた。

いつかドラゴンが言ってたな。
「俺はいろんなドラゴン使いを見ていたが…お礼という名目で、厄介払いの場所にされていないか?みんなの所に送られてくるのは、不良品ばかりで、所謂お荷物なんだが」

鎧もガタガタだ。
ドラゴンは修復魔法も使えたから、誰かに横流しする時には修理してたんだけど。
せめて、せめて最後に、全ての道具を一掃して欲しかったかな。
私と一緒に、この家を潰してくれれば有難かったのに。

でもそれも、考えないようにしよう。
王宮からかなり高額のお金も支給されてるし、よし、何かしてやるぞ!
私は自分を奮い立たせるように体を揺すった。
何か達成して嬉しいことが良いな。
ええと、私に足りないもの、とか。

頭がキン、となるような感覚が襲ってきた。
嫌な思い出、事柄が湧き上がってくる。
それを慰め、守ってくれるドラゴンもいない。

苦しい。

私には両親がいなかった。
私がドラゴン使いだから、というわけではない。
死んだのだ。
父は、私に全く似ないで、とても強かったそうだ。
そして母は補助的な役割を担っていて、特に回復魔法が群を抜いて上手かったらしい。
だから最高のチームとして活躍していたそうだ。

しかし、私が二歳の時に、魔獣が国の境界線を突破してきたという情報が入ったのだ。
そこは広い草原だったが、いつ街に入り込んでもおかしくないということだった。
その時に私の両親は真っ先に駆けつけ、戦死した。
大人が五十人がかりでも倒せないようなとんでもなく強い魔獣が、急に出没していたらしい。
その魔獣を三百匹相手に戦い、美しく戦死したそうだ。

ドラゴン使いは基本的に生命に干渉することは無い。
だから魔獣を駆逐するような事はしない。
でも、私の両親を助ける事や、魔獣を送り返す事はできるから、私の前のドラゴン使いはすぐに向かったようだったが、もうすでに遅かった。

大きな雷が落ちたような光が四方八方に飛び散って、爆風が走ったかと思うと、一瞬で草原は焼け野原に変わり、魔獣も、私の両親も、全員塵となった、らしい。

「あそこまで強くなるのも考えものじゃ…もっと限度を…知って欲しかった…」
と王は言っていた。

私はそれから「英雄の子」として王宮に預かられていたが、龍玉を反応させてしまった。
「やはり英雄の子だ…」とみんな納得する一方、
「両親がいないのにドラゴン使いをするなんて、心労で精神面に異常をきたすのではないのか?」
という声も上がったそうだ。
まだ三歳だもんなあ。

でも王はその声を聞かなかった。
「龍玉が、ドラゴンが選んだ子なのじゃから、間違いはあるまい」と、反対意見をはねのけたのだ。
そして五歳になった時、ドラゴンを王宮に住まわせると問題が起こったら大事になるという意見によって、街の中心から少しずれたここに住居をくれたのだった。

そんな夢みたいな話を、ふと思い出した。
どうせ目標を掲げるんだったら、叶わないことが良い。
ダメ元だったら、落ち込むのも少なくて済む。

私は、両親を見つけるために、冒険家になることを決意した。
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