ドラゴン使いを終えて

Nick Robertson

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「…早かったなあ」
司の言葉に私も賛成だ。予想はしていたけれど。
ガードが外れたので、後はその魔獣を解体するだけだ。

「わ!簡単!」
「まあ、毒が浸透してるんだからね」

面白いほど鱗は取れた。
剥がしていくと、肉が露わになる。
司の『鑑定』によると、毒の効果で肉がただれて、さらに深くにも広がっているため、毒抜きが難しく利用するのには難しいとのことだ。

「ふーん。じゃ、本当のところは?」
「『本当のところ』?」司が聞き返してくる。
「司の能力があったら、このくらいの毒、どうとでもなるでしょ」
「ははは…」

司は「『分離』」と呟いた。
毒がすぐさま抜き取られる。
緑の液体は再度司が収集した。

「もう、別に驚けなくなってきたことだけど…新しいスキル?」………私は少し食傷気味になってると思うんだ。
「そうなんだけど…これなら魔力で漉し取るだけで十分だったね。不要なやつかもしれない」
「そうだよねえ、『不要なやつかもしれない』だってさ」

「そんなこと言ったって、これくらいならリリーにもできるくせに」
「できる、だろうけど、なあ…」
私が羨ましいのはスキルって言うものだ。波動とか魔力を使わないなんて、そのまま反則にすべきだ。不平等過ぎると思う。

「おい、リリー。あいつには声をかけてやらないのか?」私の司の会話が途切れるタイミングにレッドが合わせて言う。
「ん?」

レッドが見ているのは、やっぱりヘンリだった。
「ほお…みなさん凄いんですねえ…本当に凄い…」と、なんだか独り言の才能に目覚めたようだ。 

「うーん、じゃ、レッドが相手したらいいじゃん」
「俺?会話が…」
「チャンルがいるよ?」
「うー」
「何?恥ずかしいの?」
「そんなわけあるか!」
レッドが叫ぶ。

その時、「んー?ヘンリも天才だと思うけどな?」と声が聞こえたから、私とレッドはすぐにそっちに首を向ける。
「…チャンルさん?…それとも…」
「いや、僕だよ…チャンルで正解。」

しまった。オリジナルに先を越されたらしい。
チャンルはオホンともったいぶった咳をして話しだす。
「君はどう見てもこの世界でトップレベルに君臨してる。それに隠蔽魔法なんて他に類を見ないくらい精度が高い。…自信持っていいんだよ。君の力を認められない人間はここにいないから」

チッとレッドが舌打ちした。伝えたかったことを全て言い表されてしまったようだ。
「そうか、そうなのかな…、でも…」
「この世界を作った僕が言ってるんだよ?」のんびりした調子で喋るチャンルは、完璧にキマっていたが、私にはやっぱりちょっと、なあ…。

それでも、ヘンリの心は大きく動いたんだろう。
「うん…」と、ぎこちなく頷く。
それを見るとチャンルは少し笑って、歩き出した。

「チャンル、どこ行くの?」司が聞く。
「………聞くなよ。今いいところなんだから」
「?」
司が不思議そうな顔をしていると、チャンルはスゴスゴと戻って来た。
「ほら!こう言う時は颯爽と歩いて去って行くもんだろ!それが…それが!お前のせいで台無しだ!!」
チャンルは顔を引きつらせて訴えかける。

「いやー、今のチャンルの発言の方がまずかったんじゃ…」司は頭を掻く。
私はヘンリを見た。
かわいそうに、幻滅したのか、カタカタと震えている。

チャンルはそれに気がついたが、知らん振りを突き通すつもりらしい。
まあ、私はこんなトコだと分かってたけどね、エヘン!
「はあ…はは」レッドでさえ苦笑いしているじゃないか。

「…ヘンリ、いつ馴染むのかな…」タツが状況をまとめるように締めくくった。





「…信じられん…いや、君ならやってくれるとは思うとったが…」
「いえいえ、わ、私だけの力じゃなく、司さんと…チャンル…」
「ん?誰かね?」
「いえいえ!小刀…じゃなくて!王様のご協力のお陰で成功したことですから、お気になさらず」
「そうか?だが、君一人で倒したのだろう?考えられないことだ。それ相応の褒美を与えようと思うのだが…」
「お構いなく!それより、私は他の革命獣も殲滅しないといけませんので、ここらでおいとまさせていただきます」
「おお、そうしてくれるか!ありがたい。期待しているぞ」
「はい、お任せください…」

ヘンリはそう言い終えるとお辞儀をして王宮を出た。
歩きながら、大きく深呼吸する。
「……ねえ、いい加減出てきてよ」
「ダメ、みんな見てるから」
「分かったよ…」
ヘンリはぎこちなく動きながら、細々と会話する。

革命獣を倒したことを、王宮に知らせなければいけなかったらしい。
でも、私は「王宮」という言葉の響きが好きじゃないし、司もそんなに目立ちたくないということだったから、隠蔽魔法をヘンリにしてもらっているのだ(チャンルだけは乗り気だった)。

本当は行きたくもなかったんだけど、そこはどうしてもヘンリが譲ってくれなかった。
「私が隠蔽魔法をするから、ついて来てください!お願いします!」と泣きつかれたのだ。どう見ても、ヘンリが一番王宮に行きたくないのは明白だった。

今は早々と会話を切り上げて帰っている途中だ。
私は、王宮がどこにあるのか密かに疑問を抱いていた。
ドラゴンに乗っていた司さえも知らなかったのだから。

そしてヘンリに案内されたのは、街の中心だった。
こんな所に王宮があるのかと思っていたら、実はその地下にあったらしい。
全然気がつかなかった。
それもそのはずで、その王宮の位置を敵に悟られないようにと、ヘンリの隠蔽魔法が使われていたのだ。

「こんな所に王宮?素晴らしい案を思いつくもんだなー!」とチャンルが叫びかけて、司に口封じをされていた。少しそのタイミングが遅かったのだが、周りに誰もいなくて助かった。

王宮はやはり大きかった。
地上の街は、あくまでも要塞で、ここが本命の場所なんだと思った。
「…ねえ、ヘンリ?なんでわざわざこんなトコまで出向かなくちゃならないの?」と聞いてみると、
「私は、特別に地上で生活することを許されているから。普通、少しでも実力があると王宮に召し抱えられて監視させられたりするのよ。でも、私はそれを免じてもらってるから、これくらいは…」

私はフーンと鼻を鳴らした。
ヘンリは気づいてないのかな。私には王宮の人間の気持ちがよく分かる。
本当はヘンリも捕まえたいはずなんだ。ちょっと道を外せば、たちまち強敵に早変わりする逸材なんだから。

でも、それができない。
なぜなら、ヘンリの隠蔽魔法を破れる人間がいないから。
だから、仕方なく地上で生活するのを見放しているのに過ぎないんだと思う。つまり、その権利は貰ったんじゃなくて、ヘンリ自身の実力で勝ち取ったもののはずなんだけど。

まあ、ヘンリが自分でそういうんだから良いってことにしよう。
私はまた観光を楽しみ始めたと、こういうわけだ。
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