ドラゴン使いを終えて

Nick Robertson

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「ーーー!!」私のガードはとうとう限界を迎えて砕け散る。
体に痛みを覚える間も無く、私は死んでしまった。



「…っと」
意識は健在のようだ。
私はすぐにおばさんと自分を蘇生した。


「ところで、ここは…?」
さっきいた空間とまるで違う。
草がそよいでいる。

「どうして…」
「司がやったんだね、きっと。…避難させてくれたんだよ」ドウランが静かにと言った。

「どうなってたの?!今のは!」キヌが怯えた声を出す。
「…分からない。…でも、ヘンリは司を本気で殺そうとしてたよ。…どうする?」

私はさっきの光景が嘘のように穏やかな草原を見つめた。

「…タツと会った時も、こんなだったね。………そういえばタツは?」
「…ここ」鈍い返事が聞こえた。タツもドウランの波動から声を送りつけてくる。

「どうして静かなのって…ああ、司がピンチなのか、こんなこと言ってる場合じゃないのにね」
いまいち実感が湧かない。あんなに強い人間にピンチなんてあるものなのか?

「…私ね、さっきまで、意識で司の動きを見てたの」タツは私の言葉には何も触れずに言う。
「え?!」
「ドウランが提供してくれたこの空間で話するより、面白そうだったから…」
「そうなんだよ。ずっと、心ここにあらずって感じだったね、実体は無いながらに」…口調からして、ドウランも切羽詰まったような心境では無いようだ。

「それで、司を見てたんだけどさ」タツはドウランの言葉もスルーする。
「…そしたら?」
「いきなりヒトケのない場所に行ったかと思ったら、異空間に飛んじゃって…。私もそれに巻き込まれる形で、一緒に、さっきの空間に行って…」

「その時に私達に伝えてくれれば良かったのに」
「だって、波動は置いて来てたのよ。意識だけ一緒に持って行ったんだから」
「意識は小刀へ帰れなかったの?」
「…うん」

そういえば、魔術師の街の中に来てから、ドウランは司の居場所が分かったのだ。森の中からは丁度波長が合わないような空間だったのかもしれない。それならば同様に、意識が自分の波動の元へ戻って来れなかったのも頷ける。ややこしい空間もあるもんだ。

「それからの話は、タツの思考を覗いたら分かるってことだ」ドウランがタツの開きかけた口を制する。
「あ、そんな手があったのか」

私は緊急時につき、自分に課したルールを破ってタツの思考を読み取ることにする。

それを始めようとした時、このままではドウランに先を越されると直感した。この手の能力はドウランの方がずっと上手いからだ。
私はすぐに精神世界に自分の意識を接続する。

「…なんだ、気持ちよかったのに」
「お爺さん!分かってるだろうけど、時間を引き延ばすやつ、やってよ」
「うむ、分かった」

お爺さんはこれでいて物分かりがいい。すぐに時間はゆっくりと流れ出す。
今のうちだ。
私はタツの意識へ潜り込むようようにイメージしながら探っていく。

この時重要なことは、自分が読み取っている対象者の感情は読み取らないことだ。
感情とは本来文字に表せないくらいに複雑なようで、だから、感情を読み取ると情報量が多くなりすぎるのだ。

そこまでしてしまうと、今度は「追体験」になってしまいそうだ。

今やるべきことではないだろう。
ずっと、タツが見たことだけを読み取る。



司がヘンリに対して「…ここらでいいんじゃないの?自分が用意した特等席だよ。ここなら、多分ドウランもリリーも、誰も分からないはずさ」と言った。

「…そうね。思う存分戦えそうだわ」ヘンリもフツフツと笑った。…二人とも、タツの意識には気づいていないようだ。

唐突に、ヘンリの波動が荒れた。
バチバチとヘンリの中でぶつかり合い、爆発的なエネルギーを生み出していた。衝撃波みたいな風が司に体当たりする。が、もちろん司はビクともしない。

「うん、相手として不足しないよね。自分はあなたと比べるとキャリアに差がありすぎると思うけど」
司が少し目を閉じる。ハッとするような輝きが広がり、ヘンリに対抗した。

…それが、昨日別れてから少し経った時に展開されていた光景だったのだ。
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