漠然としたトコロ

Nick Robertson

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ここを覗かれよ。

占い師が路傍で私へ手招きしている。
私が左右を確認しつつ、近づくと、そんなことを言う。

見てみると、傷ついた水晶の中に、水のような物が入っていた。

「何が分かったかね。海があったのか」
「あ、はい、ありました」
「それは結構」

占い師は数度頷いて、「それでは海にこれから行かれますかな」と聞いてきた。

「そんなわけないじゃないすか。こんな格好で」
私は笑いながら、ネクタイをひらりと返した。

「そうですか。そんならよろしい。もしよければ、このペンダントでもいかがですかな」

チャラチャラと紫色のそれを、掲げてみせる。

「いや、いいですよ。そんなの」
「そうですか。それなら早く家へお帰りなさい」

占い師は、ムッとしたように言った。
そこで私は、「はい、それではさようなら」と返して占い師の前を過ぎた。


それから随分経ったある日、後ろからポンと肩を叩かれた。
振り向けば、あの時の占い師の老人である。

「あ、前にどこかで会いましたね」
私は記憶をたどりながら言った。

「そうだ。それで、今まで何ともないかね」
占い師は私を見上げるように言った。小柄なのだ。

「あぁ、まぁ、おかげさまで」
「それはそれは」
彼は私から少し離れて目を見開き、「良かったですね。さようなら」と言った。
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