漠然としたトコロ

Nick Robertson

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よく吠える犬だ。
僕はそいつと視線を合わせる。

中型犬の、柴だ。柴犬。
僕と向き合うと、やっと鳴き止んだ。

尻尾をわずかに揺らして、固まっている。これからの僕の動きを一瞬たりとも逃さないと言わんばかりの構えようだ。

小さな赤い首輪が見えた。ちょっと古ぼけているだろうか。

「お前はさ、何考えてんだよ」

僕はそう聞いてみた。
もちろん答えてくれるはずもないけど、何となく。

じり、と近づいた。柴犬の尻尾がまたちょっとだけ反応する。

遊びたい時にも、犬は吠えついてくるようだ。でもまた、あっち行け、という場合も変わらない。

…これ以上近寄れない区域だ。結界だ。
犬の顔が少し斜めに傾いている。
一歩でもここから進めば、また怒鳴り散らしてきそうだ。

僕はそんなピリピリした位置で中腰になる。
柴犬もかなり緊張している気がする。
ここで張り合い続ければ、勝てるだろうか。

まばたきさえ、できるならあまりしたくない。
押しているみたいだ。今までこんな対抗をされたこともなかっただろう。

するとこの犬は歯を剥いて、グルルル、と唸ってきた。
その途端、僕は興味がどんどん失っていくのを感じた。
なんだ、勝ったってどうにもならないじゃないか。こんなもの。

くるりと後ろを向いて、さっさと歩きだした。
けたたましい鳴き声がとうとう耳へ飛び込んでくる。
が、僕はそれを介さずに遠くへ行く。
飼い主が家から出て来なければいいんだけどな。

結局、柴犬は僕が居なくなっても、長い間叫び続けていた。
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