鬼才帳 女

Nick Robertson

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「これとか似合わない?」
「分かんない」
「試着する?」
「どっちでも」
「あら、テンション戻っちゃった」

嫌いではない。
これくらいの薄さであれば、外の風がキツくなるだろう。
それでも、車は暖房がガンガンしているし。

「うぅ、正直な話、俺もほんっとにこっち系の分野は分かんないからさ。楓がこれだっ!って言わなきゃ決められないんだよね」
「ふぅん」
「みっちゃんに連絡してみようか」

スマホをいじって、連絡帳まで出したようだが、息を吐いて、結局画面を閉じてしまった。

「いや、まっ、慌てる必要もないんだから。もっと文房具とか、そこらを見回ろうよ」
「おっす」
「おっす?!」
「…分かった」
「ははは、いきなり可愛いのぶち込んでくるね」

私が欲しいもの。探せば、いつか発見できるのだろうか。とてつもなく先のことに思えてならない。

「筆箱、これはどうよ」
「うん」
「うん、って。分かんないよ」
「いいと思う」
「思ってないでしょ」
「まあ」

クマの顔が横にくっついてるのか、そういうのでもなく、灰色の下地に細い白線が何本か横切っているシンプルなデザイン。

「どっちが良いのかな、楓には」
「………」

その横にあった筆箱も掴み取って、両方を見比べている。
こっちは、黒地にピンクの星が散らされていて、キラキラ光るアクセサリーもいっぱいにくっついている物だ。

「俺的には、楓はこっちの単調なのがベストだと思うんだけどなぁ」

どうする?などとは聞いてこなかった。自分で判断することにしたらしい。私はどれでも構わないし、買わなくても充分。

「くあー、やっぱ決めらんねぇよ。ここはみっちゃん登場しかなさそうだな」
「………」

片膝をついて顔をしかめているヒロと、後ろに立っている私。
どうってことないのに、なんだか不思議な感じがして顔が緩む。

「もしもし、みっちゃん?今どこ?………え、ダメ?あっそう。分かった。じゃあね」

電話を切る。
そして私を見上げて「『買い物なら付き合えない』って先読みされてたわ。コインゲームで忙しいんだとさ」と言った。

「ふーん」
「よし、こうなったら、俺らもゲーセン行こうぜ!」
「うん」
「クレーンゲームでどっちがお菓子を取れるか対戦してみない?」
「そーね」

さっき映画の初めにポップコーンの取り合いみたいになって白熱したからだろうか。UFOキャッチャーでバトルなんて、しようと思ったこともないけど。
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