おもち

Nick Robertson

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散歩

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飴玉を転がしながら歩いている。
右手には綱を持ち、犬を連れている。
舌にじんわりとパイナップル味の唾液が広がる。

見慣れた眺めはほとんど頭の中を素通りしていく。
私は今きっぱりと飴玉の味に集中している。

夕方だ。
直に日が暮れる。
斜光が顔を赤く染めている。
右腕は軽く肘が曲がっていて、左手には小さな袋を提げている。

向こうから別の犬を連れた男がやや早足にやってくる。
私の犬は息を荒くして、少し飛びつくようにする。
が、端から諦めているらしく、あまり強引に進んで行こうとはしない。

綱を短くしてやり過ごす。
ついで、その男の後ろからやってきた黒い車も通らせる。

体全体でじんわり温かい。
明日は晴れるだろうと思う。
そう思ううちに道を折り返して帰っていく。
途端、体の正面が影になった。

田んぼがある。
その中にはカブトエビが動き回っている。
泥が掻き回され、水中を小さく舞っている。
そうして犬は糞をした。

左手に持っていた袋から、ナイロンを取り出して糞を包みとる。
犬はその間立ち尽くして待っている。
口を縛ると、それをもう一枚のナイロンに入れた。二重に覆ってしまうのだ。

その二重のナイロンを袋に仕舞い、足の裏で踏みつけて固定していた綱を握る。
また歩き始めようと思った刹那、振り返った。

空の向こうはほんのりと紫がかっている。
暗がりはみんなこっちへ先端を伸ばしている。
飴玉はガリリと噛み砕かれた。
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