『観察眼』は便利

Nick Robertson

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足を動かしながら、俺は
「…道は分かってんのか?!」と聞く。
「もちろんよ。そんなに大きい基地じゃねぇのさ。見つかりにくいようにな」
ザクはそう言う。

(…大きくない、か。俺の『観察眼』もまだまだだな)
この基地が小規模だと言うことは、俺の感知範囲はさらに小さいわけで、つまり実力不足だ。ちぇっ、もっと練習しときゃよかったんだ。回復薬なんてごねごねしてる場合じゃなかった。考えてみれば、この依頼に取り掛かる前の行動では、相手を潤すことしかしてねぇな。

「こっちにトイレあるぞ。入っとくか?」
「そこを後ろから襲われたらどうすんだ」
「俺が守ってやるよ」
「すぐ近くにお前が目をギラギラさせながら立ってたらションベンなんか一滴も出ねぇだろ」
「へへ、確かに」

角を曲がる。
大きな窓。そこからは、青い空が見える。
ここら辺の高度で停止しているようだ。何メートルかな。そんなに高くはなさそうだ。ざっと500メートルくらい?高いかな。

「…ここから敵が侵入してくる可能性は?」
「十分あるよな」
「…その時、俺らが逃げきれる可能性は?」
「十分あったらいいな」

風がどう、と吹き込んできている。どうしたのかと思ったら、さっき渡り廊下と切断したところから空気が入り込んでくるのだった。いや、抜けていってんのかな?

「こっちに来い」
その場所を避けるように、壁に身を寄せて扉を開く。
身を滑り込ませると、階段があった。

「…上に行くぞ」
「どうして?」
「敵は離れた所にいるんだろ?だったら、上の階にいるっていう線が有力だと思うからだ」
「なるへー」

階段は分厚くて、一段飛ばしに駆け上がると鈍い音がしていた。

一階上、二階上、三階上に来た時、ザクは「…どうだ?」と聞いてきた。『観察眼』のことを聞いてるのだろう。
て言うか、四階建てなのか。小さくないじゃん。いや、基地としては、どうなんだろう…。そんなことを考えながら、術を発動する。

「…………」
「どした?」
「『観察眼』が、上手く機能してない」
「なにっ!!」
「邪魔されてる、のかな?向こうの方がぼんやり霞んで見えないや」

それを聞くと、ザクは顎に手を当てて考え込み、やがて「行くしかないな。敵がそこにいるってことはほぼ確実なわけだし」と呟いた。

それから、素早く、静かに、その階につながる扉を押す。重量感のあるそれは、地震とか、臨時の時に使うような感じがした。今は非常事態だから、まさしくそれに当たる。

ガラララッッ!!
聞こえる音が大きくなっていた。

俺とザクは忍び足で壁に寄り添いながら廊下を歩く。
この廊下は、最初はそんなに気がつかなかったけど、どうやら少しぐにゃぐにゃするように設計されているみたいで、直線な道はない。だから、隠れるのにはもってこいだということだ。

「……………」
ゴリッゴリッ

何かをかじっているらしい。その音まで、ガンガン頭に響く。どういう術を使ってんだよ。

そこでまた試してみたが、やはり『観察眼』は使えなかった。
そればかりか、まためまいがして倒れそうになる。
急いで壁に手をつくが、相手に気づかれるような音は出さなかった。セーフ。
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