雑踏

Nick Robertson

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一日

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昨日も歩いた道が、全く違うように思える。
そんなことは、時たまあることだ。
今のように。
「あれ、おっかしいな。こんなトコに神社なんてあったのか。ふーん」
小さい社だ。昨日は気づかずに通り過ぎたのだろう。
それを横切った後、公園が見えてくる。
「はは、ここって遊具がないんだよな」
確か、誰かがジャングルジムから落ちて死んだんだっけか。大人にとっては決して危ないものではなかったはずだから、きっと転落したのはすごく小さな子供に違いない。それで、全面撤去だ。ウンテイやら、鉄棒やら、滑り台やら、ブランコやら、全て姿を消した。赤いペンキが剥げかかってたシーソーまでどかすことはなかったと思うけどな。
この話は噂に過ぎないが、これほどまでに徹底して遊具をなくすのだから、本当のことのような気がする。もちろん俺は見ていないが。
そんなことがあって、ここでは人がめっきり減った。幼稚園帰りの子がずっとブランコを乗り回している風景は、完全に過去の物になったわけだね。
今は、サッカーをする子供以外が数人いるだけで、寂しい限りである。仕方ないとは思うが。
その中の一人がジッとこっちを見ていた。やべ、もうそろそろ騒がれそうだ。そういうのは好きじゃない。逃げておこう。
俺は軽く走って公園から遠ざかる。
しばらく行くと、モンシロチョウがいた。ひらひら舞っている。
「ふっ。虫取り網を持った奴なんかに捕まるんじゃねえぞ」俺はそう忠告した。向こうにそういう人がいたからだ。
だが、そのチョウは俺の言葉なんて耳に入らないようで、悠々と地面近くを飛び続けている。なぜこんな所を飛んでいるんだろう。目的はないのか?ないのにエネルギーを使って体を動かしているのか?
花の蜜でも吸ってろよ、と呆れかけて、自分もただブラブラ歩いているだけということに気がつく。
みんな同じだったのだ。
ちょっと鼻から息を吐いて、まだ進んで行くと、やがて自分の家が見えた。
「そっか。もう終わりか」
ヒョイと塀によじ登る。
バランスを取るなんてことを考えるまでもない。スタスタと歩いて家へ向かう。
途中、鳥が留まっていたけど、俺は気にすることもなく突き進む。ほーら、どうせあっちから逃げてくれるもの。かなり離れているのに、慌てて羽をバタつかせてさ。
でも、俺は何もしない。追いかけるそぶりも見せない。一日中遊んで疲れてるんだ。喧嘩もやりそうになったし、バッタを地面に押さえつけたりもした。
だからもう満足なんだ。
塀から降りて、家の扉の前に座る。
こうしていると、学校帰りの坊ちゃんがきっと見つけてくれるから。







俺は、猫
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