スルーの達人になりたい

Nick Robertson

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蟹は穴の中にハサミを片方入れて伸ばしても俺には届かないと知ると、イマイマしそうにヒョロリとした目で見てきた。
それでも俺が楽しそうにしていると、とうとう遠のいていった。

「やっと行ったな…」俺はそろそろと穴から出た。
すると、てっきりどこかへ行ったと思っていた蟹が攻撃してくる。
「あわわ!待ち伏せとかありかよ!」俺は別の小さな穴に潜り込む。
ああ、ここも行き止まりだ。

蟹は作戦が失敗して悔しそうだ。
また睨み合いが続いた。
すると蟹は口から泡を噴き出し始めた。
泡は口から離れてこの穴に吸い込まれてくる。
と、だんだん膨らんできた。
「ややややヤッバ」俺は後ろの行き止まりの壁に寄りかかって祈る。
泡はいくつもやってきた。
だから俺は缶詰のようになって押しつぶされそうになった。
もう死ぬ!と覚悟した瞬間、パンといって俺を押し込んでいた泡がはじけた。

「ん?」
膨らんだ泡に岩のトゲが突き刺さったのだ。
蟹のパワーがあと少し高ければ危なかったと思う。
俺の間近まで迫ってきた泡たちはこぞってはじけて消えてゆく。
ひらめいた。
俺は一番近くの泡が弾けた瞬間走り込んで他の泡を押した。

泡が蟹の口に逆流した。
蟹はほんの少しだけひるんで口を閉じた。
はっは、どうだザマーミロ。
俺は自己満足したからもう後はどうとでもなれと言った感じだ。
仕返しはしたからな。一矢は報いたぞ。

しかしこうなると蟹の方も攻めあぐねたようだ。
天井をいきなりハサミでひっぱたいた。
バーと音がして泥が穴を塞ぐ。
え、生き埋め?
おいちょっと待て、これしてお前になんのメリットがあるんだ?
俺を食えるわけでもないだろ?
おい!

俺は泥を押してみる。
手が音もたてないで泥に埋もれる。
確かにここから出ることはできるようだ。
しかしそうしたところで泥まみれは必至だ。
俺はブツブツとつぶやきながら決心を一つにし、息を止めて泥の海に飛び込んだ。

「グエッ、ブホッ」よし、出れた。
しかしその次の瞬間には非情なハサミが俺へ向く。
ま、まだ目に泥が、うわっ。
俺はベトベトのまま攻撃をかわさなければならない。
こうしてみると俺も泥にまみれたモンスターだ。
穴に入っても同じ目にあうだけだろう。
俺は「時間稼ぎ」と自分に嘘をついてまた逃げ出した。
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