スルーの達人になりたい

Nick Robertson

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「ダンジョンは時空移動を使えないのか?」
「使えないね。ダンジョンは外となんか空気が違う」
「なるほど」

入り口に到着する。
多くの人が並んでいて、チケットを買って中に入っていく。

「あれ、間違えて何かのショー見に来てた?」
「いや?このダンジョンは比較的簡単だから観光目的に来る人もいるらしくて。だから入場料ができたの」
「詳しいな」
「こーゆー情報はさっきの村のグループにいたら入って来るんだ」

俺はそれを聞いて質問を思い出した。
「お前なんであんな所にいたんだ?」
「ああ、それは僕も交流というものを学ばないといけないからね。誰かが僕のダンジョンに立ち入ると僕はそれを察知してすぐに戻ってたんだ」
俺は感心する。

「じゃあ無理やりグループ作るあれは何?」
「あれは臆病な人たちだよ」
「は?」
「あそこにいるのは大抵一度冒険者を脱落した人たち。そして以前に仲間が死んだのを見たとか言う人が多いんだ。その人は怖くなって強い人が、ダンジョンで守ってくれる人が現れるまでひたすら待つんだ」

俺は納得しかけて血の気が引いた。
「おい、あの村小さかったな。そしてダンジョンは一つしかない。あの村で多くの人がイソウロウしてるっていうのは…以前仲間をお前に殺された人じゃねえか!」
「そーなんだよねー。もう主やめたから大丈夫。実際君に負けてからやる気失ってさあ」
全然大丈夫じゃねえよ。

「か、顔は、バレねえのか?」
「そこは大丈夫。今もだけど、君以外の人間にはこんな風に見えてる」
少年はもっと背が高くなって暗いベールを被った顔をうつむけた、暗い感じの人に変身した。
「え、え?」

少年の姿が戻る。
「みんなにはこんな風に見えているのでした」
「お、俺以外というのは…」
「いやー、君には僕のこと気づいて欲しくて」
さりげなく自己主張していたのだ。
そして俺はパートナーに少年を選んだ。

「俺が、もし気づかなかったら?」
「よく分かんないよ。寂しくて自殺しちゃったりして」

俺は屈んで少年の耳元に口を近づけるようにして話していた。こんな事を大きく言って周りに聞こえれば、大罪人になりそうだ。
恐れられる殺し屋だった子供と馬鹿にされる大人。
なんか変な感じだ。

俺たちに順番がくる。
「はい、1234円ね、二人だから2468円かな」
円なの?いや、でも持ってたっけな…
俺が焦っている間に少年がにこやかに渡した。
「はい、お釣りなしね、チケットです。それでは次の方ー」

俺は少年にやはり小声で話しかける。
「お前よく金持ってたなあ」
「偉いでしょ。ダンジョンに来る人は大抵持ってるの」
「…それを盗んだの?」
「盗んだんじゃないよ。人聞きの悪い。だって持ち主はいなくなってんだから」
それお前が殺したんだろうが。

「銀行とかないの?」
「あー、預かってもらえる場所ならあるんだ。でも僕のダンジョンは草原から始まって、なかなか距離があるから、ダンジョンクリアしてから取りに戻ろうとする人なんていうのもナッカナカいないんだ」
「ふーん、なかなか、ナッカナカ」
俺は口の中でつぶやいて笑った。
そういえば、さっきこいつはニコヤカにお金を渡したけど、受け取った人は無愛想に見えたんだろうなあ。
俺にしか分かっていないこと。なぜか嬉しい。

「それとね、死んだ人は怖みを帯びてくる前に消すの…」少年が聞いてもないのにそんなことを言う。
「おい、もう突入だぞ」俺が振り切るように言うと、少年は手を挙げて遮った。

「あれ、見てよ」
そこは看板が付いている。
「タイム、トライアル…?」
「競争だね。一番にならないと」少年の熱意というものは何故か涙をそそるものがある。こいつは何歳かも分からないけれど。
勇んで始めよう、ダンジョンの入り口。
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