婚約破棄された男爵令嬢、ボロ雑巾を拾ったと思ったら、大魔法使いでした!~番だと言われて溺愛されたんですが!?~

水中 沈

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1 ボロ雑巾と思ったら人間でした

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「何これ、雑巾?」

全てを攫って行くような嵐の夜。
雷が落ちたような音に驚いて、家の外を確認しに行くと、玄関先には大きなボロ雑巾が落ちていた。

何処をどう見ても、それは大きな雑巾だった。

(・・・流石にこれは放っておけないわよね。汚いし)

そのまま玄関に置いておくわけにもいかず、家の中へ招き入れようとすると、ぽろりと人の手が現れる。

「・・・ってこれ人じゃない!!」


ボロ雑巾と思った”それ”はなんと人だったのである!


「なんでこんな所に人が落ちてるの!?」


あまりの衝撃に、家中に響き渡るほど大きな声で叫んでしまう。
すると、その声を聞いた父親が慌てて寝室から飛び出してきた。

「リリィ、何かあったのかい!?」
 
「お父さん、ボロ雑巾、じゃなくて人?が倒れてるの!!」

「雑巾!?人!? どっちなんだいリリィ!?」

二人で大慌てしながら、ボロボロになった青年を二人で協力して家へと招き入れる。
黒く煤に塗れ、衰弱しきったその姿はとても痛々しい。

「一体何があったのかしら?」
 
「リリィ、今はこの子の治療に専念した方が良さそうだ」

「そうね」

父と二人で青年を寝室に運び終えた後、タオルや水、包帯と私は家の中を駆けずり回る。

途中、濡れた床でつるりと滑ってしまい、痛むおしりを押さえながら呟く。

「これも、それも、ボロ雑巾・・・じゃなかったわね。あの男のせいよ」

立ち上がり、歩き出そうとすると、今度は父とぶつかった。

「ごめんよ、リリィ」

「大丈夫・・・あ」

ガシャンと音を立てて椅子が吹き飛んだ。なんて災難な日なんだろう。

何とか塗れたタオルを持ってきて、青年の額の煤を拭う。
すると、結構な高さの熱がある事に気づいた。
 
「死なない・・・よね?流石に」

僅かに震える声で呟きながら、父の顔を見つめる。
微かに動く胸元だけが彼がかろうじて生きている事を証明していた。

「分からない・・・けれど多分大丈夫だ。多分・・・」

多分って、お父さんはっきりしてよ!

頼りなさげに青年を見ながら言葉を紡ぐお父さんにため息を吐き、青年の方へと視線を動かす。

初めて会った、知らない人。

でも、何故か異様なほどの親近感があった。
まるで、ずっと出会う事を待っていたかのような感覚。

(死なないで)

ギュッと彼の手を握しめ、祈るように願った。

結局夜が明けても、青年が目を覚ます事は無かった。

医者を呼んでも「体力の消耗と衰弱が激しい。後は静かに休ませるしか手は無い」との事で現状見守るしか打つ手が無い。

「リリィ、少しは寝たらどうだい?」

「ううん。もうちょっと頑張る」

額を冷やす氷を変え、張り付いた髪を梳かしてやり、汗ばんだ額を冷たいタオルで拭う。
小さく息をするだけで苦しそうな表情を浮かべる彼の傍を、何故か離れる気になれなかった。

「ボロ雑巾そっくりなのに、何故なのかしら?」

看病を続けるうち、煤に隠れて分かりにくいけれど、彼は整った顔立ちをしているのが分かった。
髪も黒では無く透き通るような白銀色をしているらしい。

「うっ、い、イケメンだわ」

思わず唸る。

ボロ雑巾だと思っていたのに、ちょっと待って、イケメンすぎるんだけれど!

正直に言おう。私は面のいい男にめっぽう弱い。
はっきり言ってこの青年はめちゃくちゃタイプだ。
顔を近づけてじっと顔を観察する。

「私よりまつ毛が長い・・・ずるいわ」

私はあまり恵まれた容姿ではないのを自覚していた。
よくある、ミルクティーブロンドの髪に翡翠色の瞳。

寝ている間に取り換えてやろうかしら。なんて、この世に三人いる恐ろしい魔女ですら慄くような事を考えていると、青年が小さく唸り声を上げた。

「大丈夫?しっかりして!」

苦悶の声を上げる青年の顔には、酷い疲労と痛みが刻まれている。
彼の手を握りしめながら、話しかけた。

「お礼の一つも言わずに死んだら許さないんだから」

勿論、答えは返ってこなかった。

そんな日々を繰り返して数日後。
彼の熱は徐々に下がりつつあった。

額の氷を交換しようと手を伸ばしたその時、青年が僅かに眉を動かす。
そして、ゆっくりと青年の目が開かれた。

「起きたのね!良かった」

額の氷を取り換えながら、私は彼に話しかける。
宝石の様な薄い水色の瞳と目が合った瞬間、どきりと心臓が跳ねたのが分かった。

まるで、一瞬で恋に落ちたみたいだった。

青年は、私の顔をじっと見つめると、かすれた声でただ一言、

「番だ」

と言った。

「”つがい”ってあの番!?」


思わず声を上げるとともに苦い記憶が蘇って来る。


”番”__それは生涯に一人だけ。絶対に切れない縁で結ばれた、運命の相手を指す言葉。

その希少性は、生涯を終える間に会えるかどうか。
会えれば正に”奇跡”である。

そんな、”運命の番”。

しかし、私はその言葉にあまり良い印象は抱いていない。
特にここ最近は。
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