婚約破棄された男爵令嬢、ボロ雑巾を拾ったと思ったら、大魔法使いでした!~番だと言われて溺愛されたんですが!?~

水中 沈

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3 魔法使いだったボロ雑巾

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あの嵐の日に拾ったボロ雑巾もとい、青年は、名前も記憶も何も覚えていなかった。

帰る場所も分からないという彼に、仕方なく、私たちは余った部屋を使わせてあげている。

名前が無いと困るので、一先ず名前を付ける事になったのだけれど・・・。

彼はどんな名前を並べても、「なんでもいい」と突っぱねるばかりで一向に決まる気がしない。

「リリィ、名前を付けてやりなさい」

最終的には父も投げやりな様子で私にそう言った。ひどく面倒くさそうだ。

まるで犬に名前を付けるみたいな気持ちで頭を捻る。

白銀色の髪に薄いブルーの瞳。私の言葉を待つ姿は本当に犬の様だ。

こてんと首を傾げる青年を観察しながら、自然と頭に浮かんで来た名前を口にする。

「ネル。ネルはどう?」

「ネルか良いんじゃないか」

父はもうどうでも良くなったのか、うんうんと満足そうに頷いている。
しかし、その名前が昔飼っていた犬の名前だということには気づいていないようだった。

泥んこ遊びが好きだった犬のネルと黒く煤で汚れた姿で見つかったネルが重なり合う。
どちらも厄介な存在だ。

「名前の由来は何だい?」

「昔飼ってた犬の名前よ!覚えてない?」

ワクワクとしながら名前の由来を尋ねる父にはっきりと言ってやる。

父は「犬!?・・・そんな名前だったかなぁ」と首を傾げていた。
もうボケが始まったのね。

私の横でネルが露骨に嫌そうな顔をしているのが手に取るように分かった。でも、

自分で名前を決めないからこうなるのよ。

「ネル、貴方は今日からネルよ。分かったら、ワンと鳴きなさい」

「絶対お断りなんだけど」

名前を呼ばれたネルがぶっきらぼうにけれど少し嬉しそうに返事を返す。
決して楽しい会話では無かったはずなのに、胸の奥がぽっと暖かくなる感覚がした。

”番”ってほんと面倒くさいわ。

相手の態度一つとっても、自分の意思とは関係なく心が揺れる。

そんなもの、一円だって特にはならないのに。

せめてもの慰めは、彼が魔法使いだった事くらいだろう。



「まさか、魔法が使えるとはなぁ」

魔法で勢いよく畑を耕すネルを見つめながら父が呟く。
あっという間に仕上がっていく畑に、仕事を取られた私は不貞腐れながらも正直に言葉を返す。

「記憶喪失にこんなに感謝する日が来るとは思わなかったわ」

ネルは数人で1日かかる仕事をわずか数時間でこなしてしまった。
雇っていた人には悪いけれど、人件費が削減され、私達の家計は少し楽になる予定だ。

「ネル!私の仕事取らないでよ!!」

畑を耕すネルに文句を浴びせる。
大きな鍬を振り上げながら、どっこいっしょー!と畑を耕すのが私の唯一のストレス解消法だったのに、それも取り上げられてしまった。

まあ、家計的にはずいぶん助かるけれど・・・。

「悔しいなら、魔法でも使えば?」

小馬鹿にしたように笑いながらネルは言う。

私が魔法を使えない事を知ってるくせに!

「何ですって!そう以上言うなら私の足が火を噴くわ!」

「いった!蹴るなよ!」

仕返しとばかりにネルのすねを思い切り蹴る。

これで涙の一つでも零せばいいわ!

そんなやり取りをしていると、遠くから父の呼ぶ声が聞こえた。
空を見上げると、太陽が真上に昇っていた。

もうお昼の時間なのね。

「おーい、二人とも。イチャついてないでご飯にしよう」

「「イチャついてないから!!」」

ネルと同時に否定の言葉を口にする。
出会って数日しか経っていないのに、まさかのシンクロ率だ。

気に食わないにも程がある。

「ちょっと、私と同じこと言わないでくれる?」

「お前こそ」

ギロリとお互いにらみ合う。

”番”と言うより、ライバルという言葉の方がしっくりくるくらいだ。
運命の女神様、何故こいつが私の番なんですか?設定間違えたんですか?と問いたくなる。

「はいはい、そこまで」
 
呆れたように父が間に割り込んでくる。

私たちの喧嘩に割り込んでくるなんて。

この間、新品の農機具をうっかり壊してしまった事、お母さんにばらしてしまおうかしら?
なんて邪な気持ちが芽生えたが、次の言葉で私は歓喜の声を上げた。

「今日の昼食はリリィの大好きな、取れたて野菜のサンドウィッチだ」

「やったーー!!」

早く早く行きましょう!サンドウィッチが私を待っているわ!

嫌そうに私を見つめるネルの腕を無理やり引っ張って家へと向かう。

「お母さんのサンドウィッチ、すっごく美味しいのよ」

「・・・そんなに引っ張らなくてもちゃんと付いて行くって」

満面の笑みでそう言う私に、ネルは諦めたのか素直についてくる。
クスリとネルが苦笑する。

なんだろう?心臓がとくりと動いた気がした。
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