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24 氷が解ける瞬間 (ネル視点)
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一方その頃、大国レバンテでは____
3年続いた戦争が終わった。
勝利の祭りは三日三晩続き、真夜中だというのに、人々はその勝利の美酒に酔いしれていた。
「これも、大魔法使いアルヴィス様のおかげだなぁ!」
「ああ!今日はなんて良い日なんだ!」
女たちは給仕に走り回り、男たちはビールを掲げて乾杯する。
街中で紙吹雪と花びらが絶えず降り注ぎ、夜には花火が天高く空を彩っていた。
誰もが笑顔で浮足立っており、夜更かしを許された子供たちがスキップをしながら歩いていく。
けれど、窓からその様子を眺めている俺の心は凍ったままだった。
ああ、人間が何か騒いでるな。それくらいの感想だけしか浮かばない。
まるで心臓の奥底まで凍り付いてしまったかのような感覚だ。
何を見ても、何処にいても、何も感じない。
凍り付いた心の奥で、謎の焦燥感と違和感がいつまでも燻っていた。
(急がなければ・・・一体何を?)
(ずっと誰かを探している気がする・・・一体誰を?)
戦っている間も、それが終わった今でも、その違和感達は消える気配がない。
何故俺はこんなにも急いで戦いを終わらせたのか。誰かに会いに行くつもりだったような。
幾度となく自分に問いかけたが、その答えはいつまで経っても出てこなかった。
きっと、一週間前、魔女にかけられた呪いのせいだろう。
魔女と戦っていた時にポケットに入れていた百合のブローチが転がり落ちたあの瞬間。全てが音を立てて崩れ落ちた気がする。
しかし、呪いの一環なのか、その呪いがどんなものだったのかを思い出せない。
頭にまるで濃い霧がかかったみたいにはっきりとしなかった。
「民は皆、アルヴィス様を「英雄」と呼んでいますわ」
隣で微笑む娘の言葉で我に返る。
確か、レバンテの王女だったはずだ。
”番”だと紹介され、名前を名乗っていた気がするが、その名前も全く思い出せない。
番だと言われればそんな感覚もする。でも、どこか違和感が否めない。
まるでかけ違えたボタンのように違和感がある。
しかし、俺にはどうでも良かった。
どのみち、結婚相手を選ぶ権利は俺にはないのだから。
国が俺を兵器として扱っていようが、番がどこにいようが、興味のかけらも無い。
兎にも角にも、いつまでも心の奥を縛るこの苦痛の正体を知りたかった。
王女が腕を絡め、しな垂れかかって来る。しかし、胸に思い浮かんだのは誰か別の顔だった。
誰よりも、何よりも大切だったはずなのに、何故か思い出せない。
無理やり思い出そうとすると、頭が強く、ズキリと痛んだ。
「大丈夫ですか?どこか痛むのですか?」
急に頭を押さえ始めた俺を心配するように王女が言う。
正直、放っておいて欲しかった。
この痛みは、違和感は、自分の中でしか解決できないのだと声がする。
そんな俺を見て、王女は何を思ったのか「大丈夫ですよ」と優しく声をかけてきた。
「あなたを捕えていたリリィという娘は、指名手配犯にいたしましたの。
大魔法使いを捕まえるだなんて、さぞ醜悪な娘なのでしょうね」
そう語る王女の顔には「どうにかして、俺の気を引きたい」と書かれていた。
「ふ~ん。そう」
空返事を返す。
大魔法使いが何の魔力も持たない娘一人に怯える必要がどこにあると言うんだ。
逃げようと思えばいつでも逃げられる。
・・・そう、逃げようと思えば逃げられたのだ。
なのに、何故あそこに俺は居たんだろう?
ズキリと頭に痛みが走ったその時、部屋の扉がノックされた。
「どなた?」
俺の代わりに王女が問う。
「英雄様へのお祝いの花束が届いています」
「まあ!早く運んで頂戴!」
次々と侍女の手によって運ばれてくる色とりどりの花束。
王女がその美しさに感嘆の声を上げている。
俺は花束をを見ることなく窓の向こうの景色をただ眺めていた。
四つ目の花束が部屋に置かれた時、王女がこれはダメ!と声を上げる。
ゆっくりと振り返ると、白い花が目に留まった。
百合の花だった。
「百合なんて誰がいれたの?お葬式じゃないのよ!」
王女が強い口調で侍女を咎める。
侍女は言われたとおりに花束を持ってきただけなのだろうが、それでも王女の怒りは収まらないようだった。
頭を床に擦り付けながら侍女が許しを請う。
「申し訳ございません、珍しく、季節外れに咲いていたものですから」
「せっかくのお祝いなのに!あなたはクビよ!」
「そんな、どうかお許しを!!」
必死に侍女が王女に追いすがる。
それを避けながら、ふらふらと誘われるように百合の花束へと向かっていく。
そうして、真っすぐ自信ありげに咲き誇る百合の花にそっと触れた。
懐かしい匂いがする。
「リリィ?」
英雄の証として渡された月桂樹の花飾りにピシリとひびが入った。
百合の香りが鼻を刺すたびに、心臓が千切れるほどに痛み、世界で一番大切な名前が口から零れ落ちる。
凍った心が一瞬にして溶かされていく気がした。
「リリィ!!」
「アルヴィス様!?どちらに行かれるのですか!?」
王女の引き留める声も聞こえないまま、転がるように部屋を飛び出す。
「会いに行かないと」
何故今まで忘れていたんだろう。
世界で一番好きな人!
「頼む、間に合え!」
魔法で彼女の痕跡を追いながら、風のように歩みを進めた。
3年続いた戦争が終わった。
勝利の祭りは三日三晩続き、真夜中だというのに、人々はその勝利の美酒に酔いしれていた。
「これも、大魔法使いアルヴィス様のおかげだなぁ!」
「ああ!今日はなんて良い日なんだ!」
女たちは給仕に走り回り、男たちはビールを掲げて乾杯する。
街中で紙吹雪と花びらが絶えず降り注ぎ、夜には花火が天高く空を彩っていた。
誰もが笑顔で浮足立っており、夜更かしを許された子供たちがスキップをしながら歩いていく。
けれど、窓からその様子を眺めている俺の心は凍ったままだった。
ああ、人間が何か騒いでるな。それくらいの感想だけしか浮かばない。
まるで心臓の奥底まで凍り付いてしまったかのような感覚だ。
何を見ても、何処にいても、何も感じない。
凍り付いた心の奥で、謎の焦燥感と違和感がいつまでも燻っていた。
(急がなければ・・・一体何を?)
(ずっと誰かを探している気がする・・・一体誰を?)
戦っている間も、それが終わった今でも、その違和感達は消える気配がない。
何故俺はこんなにも急いで戦いを終わらせたのか。誰かに会いに行くつもりだったような。
幾度となく自分に問いかけたが、その答えはいつまで経っても出てこなかった。
きっと、一週間前、魔女にかけられた呪いのせいだろう。
魔女と戦っていた時にポケットに入れていた百合のブローチが転がり落ちたあの瞬間。全てが音を立てて崩れ落ちた気がする。
しかし、呪いの一環なのか、その呪いがどんなものだったのかを思い出せない。
頭にまるで濃い霧がかかったみたいにはっきりとしなかった。
「民は皆、アルヴィス様を「英雄」と呼んでいますわ」
隣で微笑む娘の言葉で我に返る。
確か、レバンテの王女だったはずだ。
”番”だと紹介され、名前を名乗っていた気がするが、その名前も全く思い出せない。
番だと言われればそんな感覚もする。でも、どこか違和感が否めない。
まるでかけ違えたボタンのように違和感がある。
しかし、俺にはどうでも良かった。
どのみち、結婚相手を選ぶ権利は俺にはないのだから。
国が俺を兵器として扱っていようが、番がどこにいようが、興味のかけらも無い。
兎にも角にも、いつまでも心の奥を縛るこの苦痛の正体を知りたかった。
王女が腕を絡め、しな垂れかかって来る。しかし、胸に思い浮かんだのは誰か別の顔だった。
誰よりも、何よりも大切だったはずなのに、何故か思い出せない。
無理やり思い出そうとすると、頭が強く、ズキリと痛んだ。
「大丈夫ですか?どこか痛むのですか?」
急に頭を押さえ始めた俺を心配するように王女が言う。
正直、放っておいて欲しかった。
この痛みは、違和感は、自分の中でしか解決できないのだと声がする。
そんな俺を見て、王女は何を思ったのか「大丈夫ですよ」と優しく声をかけてきた。
「あなたを捕えていたリリィという娘は、指名手配犯にいたしましたの。
大魔法使いを捕まえるだなんて、さぞ醜悪な娘なのでしょうね」
そう語る王女の顔には「どうにかして、俺の気を引きたい」と書かれていた。
「ふ~ん。そう」
空返事を返す。
大魔法使いが何の魔力も持たない娘一人に怯える必要がどこにあると言うんだ。
逃げようと思えばいつでも逃げられる。
・・・そう、逃げようと思えば逃げられたのだ。
なのに、何故あそこに俺は居たんだろう?
ズキリと頭に痛みが走ったその時、部屋の扉がノックされた。
「どなた?」
俺の代わりに王女が問う。
「英雄様へのお祝いの花束が届いています」
「まあ!早く運んで頂戴!」
次々と侍女の手によって運ばれてくる色とりどりの花束。
王女がその美しさに感嘆の声を上げている。
俺は花束をを見ることなく窓の向こうの景色をただ眺めていた。
四つ目の花束が部屋に置かれた時、王女がこれはダメ!と声を上げる。
ゆっくりと振り返ると、白い花が目に留まった。
百合の花だった。
「百合なんて誰がいれたの?お葬式じゃないのよ!」
王女が強い口調で侍女を咎める。
侍女は言われたとおりに花束を持ってきただけなのだろうが、それでも王女の怒りは収まらないようだった。
頭を床に擦り付けながら侍女が許しを請う。
「申し訳ございません、珍しく、季節外れに咲いていたものですから」
「せっかくのお祝いなのに!あなたはクビよ!」
「そんな、どうかお許しを!!」
必死に侍女が王女に追いすがる。
それを避けながら、ふらふらと誘われるように百合の花束へと向かっていく。
そうして、真っすぐ自信ありげに咲き誇る百合の花にそっと触れた。
懐かしい匂いがする。
「リリィ?」
英雄の証として渡された月桂樹の花飾りにピシリとひびが入った。
百合の香りが鼻を刺すたびに、心臓が千切れるほどに痛み、世界で一番大切な名前が口から零れ落ちる。
凍った心が一瞬にして溶かされていく気がした。
「リリィ!!」
「アルヴィス様!?どちらに行かれるのですか!?」
王女の引き留める声も聞こえないまま、転がるように部屋を飛び出す。
「会いに行かないと」
何故今まで忘れていたんだろう。
世界で一番好きな人!
「頼む、間に合え!」
魔法で彼女の痕跡を追いながら、風のように歩みを進めた。
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