転生先がハードモードで笑ってます。

夏里黒絵

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プロローグ。

器用貧乏

「お兄ぃ!お兄ぃ!死なないでよ……」

そんな声がしたが、彼には瞼を動かす気力など残っていなかった。

あぁ、病院。俺死ぬんだ、何も無いまま。
そう考えながらギリギリ保っていた意識を手放した。





波川春乃、18歳、男。
日本の家庭に生まれた彼は、コンプレックスがあった。
勉強も運動もよくできる。
容姿も別に悪い訳じゃない。
普通にモテる。
家族も自慢の息子だと言うし、可愛い妹からも尊敬する兄だと言って貰えている。
まさに優等生。
なら何がダメなのか。当の本人、波川春乃が、この「なんでもできる。」を「尖った才能がない。」と、超ネガティブ変換しているせいなのだ。
彼の真の欠点はその性格にある。小さい頃から、何をするにも1番が取れないせいで考え方が歪み、自分は何をしても1番が取れない無能なんだと思い込んでしまっている。
いくら彼の両親や妹が褒めてもこの考え方は抜けなかった。



 
春乃は高校生だ。普通に学校へ登校する。

「おはよう。」 

玄関を出ると共に、とある人物に声をかける。

「よ!春乃。」

彼は東条来郎。春乃の幼なじみである。
何かと春乃のことを気にかけ、高校が違うのに、わざわざ途中まで一緒に登校しようとしてくる。別に嫌な訳では無いが、暑苦しいのだ。そう、暑苦しいのだ。

「そういえばお前のとこ、今日は体育の実技テストなんだよな!春乃は細いから、骨が折れないように気ぃつけろよな!」

そう言ってガハガハ笑う彼を見て春乃は心で溜息をつく。

「いいよな来郎は。体育の実技テストなんて、お前からしたら朝飯前なんだろ。」

「ヘヘッ、そうだ!俺からしてみれば全陸上競技やってもいいくらいだぜ!」

いかにも脳筋そうな返答が返ってきて、また心の中で春乃はため息をするのだった。






東条来郎。悪い奴ではない。けれど彼は、どうしよも無い程の脳筋であった。
勉強は全くといっていいほど出来ないのだ。
しかし運動をやらせればピカイチである。
小学生の頃からよく何かの大会に出てはトロフィーを春乃に見せてくれていた。
春乃もそれを心からすごいと思っていた。
しかし、この行為も春乃の気がつかないところで劣等感を抱かせていたのかもしれない。
自分には何も無いと思っている春乃からしてみれば、卓越した才能を持った幼なじみは、自分が人よりも劣ってると痛感してしまう身近な要因であった。
しかもオマケに脳筋ときた。
思った事を直ぐに口に出してしまう来郎の発言は、悪気は無くむしろ心配しての事が多かったが、チクチクと春乃の心に刺さる物もあったのだろう。



来郎だけでは無かった。春乃の周りは、他人から羨まれる様な人間が多かった。
妹は母に習い、幼い頃から華道をやっていたのだが、今や中学生にして若き華道のアーティストとして、テレビや雑誌など、色々なメディアに引っ張りだこだ。
そんな娘を育てた母も只者では無いらしく、有名な旅館の家の出で、身なり作法ひとつ撮っても写真映するとか言う、春乃からしたら訳もわからぬ特集を雑誌で組まれていたのを見た事がある。
父親は一見普通の冴えないサラリーマンなのだが春乃は知っている。明らかに高給取りなのだ。
母や妹は何着も着物を持っている。2人の着物を買いに行くところを見た事があるのだが恐ろしい値段だった。父はそれをなんの躊躇いもなく買うのだ。
しかも、自分も欲しいものがあって買って貰えなかった物は1つもない。
なんの仕事をしているのか詳しくは知らないが、会社で相当な役職を貰っているのだろう。そんな所に上り詰めるのもまた才能と努力の賜物だ。




「じゃ!また帰りな!」

「あぁ、」

来郎に素っ気なく返事を返し、俯きがちで歩き出す。

「ほんと俺、なんもない。」

そう思いながら信号を渡っていると、全身に今まで体感したことのない激痛が走る。人の動きが何千倍にも引き伸ばされて見える。

「……」

すごく長い時間に感じられるのに考えが何もまとまらない。ただひたすら体が痛いだけ。そして地面に体が打ち付けられてようやく理解する。



「俺、トラックに引かれた……?」
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