魔導書士は今度こそ幸せを歩む

litce

文字の大きさ
2 / 2
プロローグ

語り部:2

しおりを挟む
セルフィーナ・グリモワール

彼女が生を受けたとき、彼女はまだ『グリモワール』ではなかった。

セルフィーナ・フォレスティ

それが生まれた時の名だ。

彼女が何時『グリモワール』になったかと言うとハッキリとしたことは何一つとして言えない。
ここでは、彼女が名乗り始めた日を彼女が『セルフィーナ・グリモワール』になった日としよう。

彼女は名を変えることで家との決別を表した。
セルフィーナ、が変わらなかったのは魔法が存在する世界において名とは一層特別な意味を持つからだ。
大嫌いな人間が付けた名前には嫌悪すらも抱いていたが名を変えることは禁忌とされているため、セルフィーナでもそれをすることはしなかった。

セルフィーナの大嫌いな人間…両親についてここで話しておこう。
セルフィーナが生まれた家、フォレスティ家は魔法士一家であった。
魔法はあるといっても大変貴重なもので数百人に一人いるかいないかのレベルだ。
そんな世界の中でフォレスティ家に生まれる子供はほとんどが魔法の才を持っていた。その才を無くさぬよう近親婚をした上で生まれたのがセルフィーナであった。一族総出で近親婚を繰り返していた家系、そんな家から障害を持つ子が産まれてくるのは必然であっただろう。
魔法士一家フォレスティ家で唯一魔法が使えない無能。
セルフィーナは生まれながらにしてその烙印が押された。
それでも一類の望みをかけて、または己のストレス発散のため、彼女には魔法の英才教育が施された。と言っても魔法が使えないものからすればそれは苦痛でしかない、虐待の時間であった。
前日習った内容が身についていなければ折檻される。毎日毎日只管に復習のため書物を書き写す日々。彼女の手はインクで黒ずみ、汚れていった。
それでも彼女は何も出来なかった。水も、火も、なにも生み出せなかった。初級魔法ですら使えなかった。フォレスティ家としてはありえない結果だ。

では、魔法とは、何なのだろうか?


                  ─────魔法とは、願いだ。

人が強く願った時、それはある事象として顕現する。
そして彼女には・・・・・・・・それが、魔導書グリモワールという形で現れた。
彼女の願い。親への、フォレスティ家への、憎しみとも言える悪感情。それは限りなく呪いに近いものだった。
さて、これで分かったであろうか、魔導書グリモワールにおいて治癒魔法が存在しない理由。誰かを癒したいというような思いは彼女にはなかった。ただ只管に両親たちが憎いという思いだけだったのだ。

セルフィーナには毎日の課題が課されていた。何百枚もの紙へ教本の内容を書き写さないとならないのだ。

ある日の朝、と言ってもまだ夜半で日の出もまだまだの時間帯だった。ふと、彼女が机へと視線を向けると必死の思い出書き写した紙は全て無くなり、一冊の本へと変貌していた。常人であるならばその本が何であるかを真っ先に不思議がるだろう。しかし彼女は度重なる折檻の記憶によって課題が無くなっていることに対しての恐怖を感じた。
どうにかしないとならない。そんな思いで再びペンを取り書き写し始めた。
全て終わった頃には既に朝日は顔を出しており、授業まで1時間を切っていた。彼女は、少しだけ、そんな思いで机に突っ伏し、夢の世界へと旅立った。

彼女の目を覚まさせたのは母親のヒステリックな声であった。
寝起きの茫洋とした頭で隣を見やると、紙が無くなっていた。机の上には教本とは別の本が2冊。
ここでセルフィーナが母親に怒られるだけであったならまだマシだったと言えよう。
彼女の母親はその本を開き、今まで一度も使えなかった魔法が発現した。
さすが魔法士と言えるのだろうか、セルフィーナが作ったものであると推測し、そこからは毎日、多くの本を生み出させるよう仕向けた。この本こそが後の魔導書グリモワールである。

寝る間もなく只管に書き写すだけの日々、それは必然であったのだろう。彼女は、そこで壊れた。

さて、では彼女が壊れた後、彼女はどうなったのであろうか。
・・・・・彼女の両親たちのことを考えれば自ずと答えはわかるだろう。

        彼女は捨てられた。

壊れて、何も出来ない人形のような彼女は簡単に"処分"出来たことだろう。

この世界で最も魔法の源となるマナが濃い森、通称『酔いの森』魔法中毒症状である酩酊感などが強く、早く出ることから名付けられた。

その森の端っこに人知れず放置されたのだ。齢十五歳の少女が
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...