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1話 道端の小石
しおりを挟む小石……
それは世の中のどこにでもあるものであり、なんら珍しい物ではない。
普通ならば、人間は愚か動植物でさえも"無いもの"とみなし、無視するのである。
無論、そんなものが生きているはずがなく、また、生きていたとしてもそれはファンタジーの世界のごく一部の生物だけである。
だが、少し考えて欲しい。
仮にその辺にある小石の前世が人間で、その小石には記憶も意思もちゃんと残っていたとしよう。
石は何年ももつ。
下手したら何百年ともつ。
そのなかでただそのばから動けない小石が、意識があるとしたら?
……それはもしかしたら地獄にも等しい一時ではないのだろうか?
______________________________________
私は目覚めた。
家の中にいたはずなのだが……何故、今、私は外に居るのだろうか?
いや、そもそもその家がどんな家だったかが思い出せない。
それどころか自分の名前もわからない。
性別もわからない。
この不確かな記憶の中で、覚えてるのは私が人間という生き物で、地球の日本という場所に住んでいたということぐらい。
その上、なんで私はこんな岩場みたいなところにいるんだろう?
目線が低すぎるし。
私がまるで地面とスレスレの場所に居るみたい。
……しかも身体が動かない。
いや、違う。そもそも私のこの身体に動かせる箇所がない。
縛られてるとか、手足が麻痺してるとか、そういうのじゃない、コレ。
なんか、身体が無い感じ。
一体どうなってるんだろうか。
私は小石にでもなったのか?
いや、それはないかな…ないと願いたい。
そう考えながら私は自分の視点が動かせる範囲で色々見てみた。
最初の視点は真正面。少し広がったような道のような場所に、土色をしたゴツゴツとした岩壁が崖のように広がっている。
次の視点はそこから右、目の前にはなんの変哲も無い石がある。
次の視点は最初の視点から後ろ。
……岩壁だ、目の前に壁。
つまり、私の真後ろに壁があるって事だね。
次の視点は真上、何やら木のような物や草のようなものが少し遠くに見えている。
どうやらここは崖の下のようだ。
最後に真正面から左。
運がいいことに、そこには少し泥水が溜まっていた。
あぁ、よかった。
この場から動けないでいるから、自分の姿が確認できないところだった。
私はその泥水を鏡がわりよーく見てみる。
写ってるのは先ほどの崖と、おそらく自分であろう姿。
いや、まって?
これって___________
そう、私の姿はただの小石だった。
人間でもない、動物でもない、虫でもない、微生物でもない……そう、ただの小石。
もはや生き物ですらない。
なんで? どうして? 私は小石にはないであろう脳みそをフル回転させて必死に考える。
これは夢かな? でも夢だったら普通、自分の記憶あるものだよね? 記憶をなくした夢なんて見た事ないし。
それに私が今乗っている土の感触、冷たさが妙にリアルだし…。
だとすると、これは何かの呪いだとか、はたまた死んだから生まれ変わったとかなのかな?
もし、生まれ変わり…輪廻転生だとして私は生前、一体何をして小石なんかに転生したんだろう。
人間から小石に生まれ変わるって相当だよね。
でも、かすかに残っている記憶には私は特に犯罪やらイジメやらしたことないはずなんだけど。
確かに、なぜかそれだけは自信を持って言える。
じゃあなんで私は石になんかになったんだろう?
神様の悪戯かな…だとしたら酷い話だ。石なんて、下手したら数十年、数百年と持つ。
そんな中、私は誰とも喋れず、身体も動かせず、自分の意思で移動できず、基本一生孤独に生きていく……。
なにそれ? 怖いし酷い。
私はこの状況からなんとかして抜け出したい。
だけどなにもできない。
どうしたらいいの私は……。
なんで私がこんな目にあってるの?
わからない…。
人間がいいとは言わないよ。
もしかしたらみんな、美少女に生まれ変わりたいだの、イケメンになりたいだの、お金持ちの家に生まれたかっただの考えてるかもしれないけれど、今の私だから言える。
生きてるって、うらやましい。
ほら、今の私なんか泣くことも叫ぶこともできないんだから。
これからどうしようかな。
この場から動けないし、この状況を受け入れるしかないのかもしれない。
考えることも、もうやめよう。
きっとこれから私はずぅっと孤独で一人……いや、一個として生きていくんだから。
私はただ正面であろう方向を向き、なにも考えないという事を頑張ってみる事にした。
ぴゅうと風が吹き、少し湿った土の粉が私に当たる。
なんて冷たくて心地よいのだろう地面というものは…。
私はただひたすら、ひたすらに意思を捨て、"石"になったつもりでいた_____
◆◆◆
一体何日? いや、何週間……もしかしたら何ヶ月かな?
私はここで一切動かずに過ごしたのだろう。
7~8台程の馬車も今まで通った記憶がある。
それ以外の変わった事なんて何もなく、意思を捨てる事は無理だったみたいで、私はただ一個、視点だけ四方八方動かしまくりながら過ごしていた。
普通だったら私はこのまま道端の小石としてこの日も過ごすはずだったんだよ。
でも、この日はなぜか、とある気配を特別に強く、運命のように感じた。
いつもはそんなことないのに。
私はふと、気配がした場所である、泥水が溜まっていた方向をみた。
その岩と土でできている、その方向の道からは何かの生き物の気配がする。
しばらくそっちを見ていると、一つの黒い影がゆっくり近づいてきていた。
私はその謎の生き物を見て……。もし、私が人間だったら腰をぬかしてるほどに、驚いてしまった。
その生き物は人間ではなかった。
いや、もしかしたら生き物ですらなく、私と同類かもしれない。
そこからえっちらおっちら歩いてくるのは一つの丸いお腹にかなり短い足と、ダラリと垂らしているだけでその者の足の付け根までの長さがある大きすぎる腕、そして小さめの半円形の頭の人形……いわゆるゴーレムだ。
でもなんだか、見るからに幼体って感じ。
ゴーレムが居るということは、この世界はとりあえずは地球ではないんだろうね。
あんな土や岩でできた人形が、まるで歩きたての赤ちゃんのように、一見すると愛くるし雰囲気を振りまきながら歩いてるはずなない。
実際、そのゴーレム……いや、幼ゴーレムは可愛らしい。
とくにそういう顔立ちをしているわけではないく、たどたどしい幼児のような仕草が可愛い。
前世の手足のある私ならば、『可愛い』と言って、不思議と抱きついていることだろう。
その幼いゴーレムの歩く速さは、遅いといえば遅い。だけど普通の幼児レベルだと言えば確かにそんか気がするようなスピードでもある。
とにかく、ゆっくりとこちらに向かってくる。
まぁ、ただわかっていることはそれは私が目的ではないということだね。
どうせ他の生き物達と同じように、私を無視するに決まっている。
そう考えながら私はその子を見つめ続ける。
他にする事が無いから仕方ないよね。
幼いゴーレムは進むのをやめようとはしなかったけど、途中で少し出っ張っている石に、そのあまりにも短い足をぶつけ、大勢を崩してしまった。
…あーあ……転んだ。
だがすぐに何事もなかったかのように立ち上がった。
痛かったね、泣かなくてえらいね、そんな言葉を私はかけてあげたくなってしまう。
そんな口はないし、よく見ればそのゴーレムに目玉はないんだけどね。
ふとその子の頭部を見上げると、少しだけ欠けていた。
転んだ拍子にかけちゃったのだろう。
かわいそうに。
だが、気にしてる様子は本人にはないようだ。
傷を気にしていない様子でそのままその子は歩き続け、私のところを通り過ぎようとする。
わかってはいた、通り過ぎられることは。
わかってたはいたんだけど、私は少し悲しくなった。
しかし、そこでさっき感じた運命が動いた……のかな?
その子はなんと私の前で立ち止まり、私をそっとつかんで頭の上に上げ始めた。
このゴーレムがいる、ファンタジックな世界に道端の小石として来て、初めて誰かから気にされた。
これは嬉しいことなんだ。
でもなんで私をつかんだのかな?
その答えはたった数秒後、すぐに分かった。
幼いゴーレムは自分のさっき転んでできてしまった頭部の欠けた部分に、無理矢理力任せに私をねじ込んだのだ。
なるほど、ぴったりな小石で傷をふさぎたかったのね。
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