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298話 ガーベラさんのお家に一泊するのでございます……! 2

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 私は出来上がった夕飯をガーベラさんに見せた。


「おおっ、すごい、美味しそう!」
「私とガーベラさんの前世で住んでいた国は同じなようなので、覚えていたものを作ってみました」
「……うん、懐かしい。……感じがするよ。クリームコロッケだね」
「はい、なんとなくガーベラさん、好きかなと思って」


 クリームコロッケはこの世界にはないみたい。一度ロモンちゃんとリンネちゃんに作ってあげたけど、普通のコロッケの方が評判が良かった。でもガーベラさんならこの料理の良さをわかってくれる気がする。
 私が作った机に夕飯を並べて、ガーベラさんと向かい合って席に着く。なんだか本当に結婚してしまったみたいな、とっても照れくさい。


「そういえば、本来なら今回は俺の番だったっけ」
「あ、そうでしたね。では次回お願いしましょうか」
「まだウチに来て2時間半くらいだけど、聞いておくよ。次はいつ来る?」
「時間が合うならまた今週中には」
「わかった」


 次に来る約束もしてしまった。なんだかいけないことしてる気分だけど、私の年齢の女の子なら普通のことなのよね。少なくとも罪悪感とかは感じないはず。
 ガーベラさんがいただきますをしてから、私が作ったコロッケにかじりついた。


「ん、やっぱり美味しい」
「良かったです」
「結婚したらほぼ毎日アイリスの手料理が食べられるのかな」
「……! は、はいっ。ぜひ作りますとも!」


 私達は会話を楽しみながら食事をした。そういえば、この家に来てから喋ってばかりいる。2時間半、料理を作っている間もずっとお話をしていた。まるで同性が相手みたいに話が続くのよね。それだけ気が合うってことなのでしょうけれど。
 やがて夕飯を食べ終えた。お風呂はガーベラさんが沸かしてきてくれている。だからすぐに入れる。……そう、私、ガーベラさんが普段使ってる浴槽に浸かるんだ。ガーベラさんは何気なく「泊まるならお風呂入っていくよね?」と聞いてきた。本当に何気なかったんだと思う。仕事中以外なら絶対に身体は清潔にしたいので私は即座に入ると答えてしまった。今になってそんな軽率に返事をするんじゃなかったと後悔してる。


「時間的に微妙だけど、もう、すぐに入っちゃおうか。その方がお話しも続けてできるし。どっちから先に入る?」
「どっちから……! えっと、えーっと……」
「……?」


 まあ、当然としてまず湯船は使い回しでしょう。そりゃあもう普通のことです。私が後に入るとして、ガーベラさんが入った後のものに身を預けることになる。つまりガーベラさんに私が包まれることになる。流石に考えが飛躍しすぎかな。それに後でやろうとしてることの練習と考えればいけるかな……。
 そしてその逆も然り。わ、私が使ったあとの湯船にガーベラさんが……。まだ、まだもう少しだけ覚悟が……。
 いや、まてよ。よく考えたらガーベラさんは普段から私の体を使った鎧などの防具を装備している。なら今更私のあとにガーベラさんがお風呂入るくらいなんてことはないんじゃないかしら。……ガーベラさんに限って変なことしたりしないだろうし。でも変なことってなんだろう、お湯飲んだりとか……? ないない、絶対ない。大丈夫ね。


「そ、そうですね……わ、私が先に頂いてもよろしいですか?」
「うん、お客様だしね。そうしてよ」
「で、では」


 ガーベラさんが相手だと、覗きだとかっていう心配もない。のんびり浸かることができそう。男の人の家、男の人が間近にいる脱衣所で服を脱いで裸になる。やっぱり……昔の私はこんなことするって想像できたかしら。
 ガーベラさんの家のお風呂は一人から二人暮らし用の家というだけあって私達の宿屋の三分のニくらいの大きさだった。でも一人にしたら十分大きすぎるほど。浴室自体は特に変哲も無いシンプルなもので、石鹸や垢すりは男性向けのものが置かれてる。汗の臭いを抑えたり油をごっそり落とすやつね。
 ちなみにミスリルのゴーレムだからか首から下に産毛以上の毛が生えてこない私は、普段は肌に優しい石鹸を使っている。もちろん今回は垢すりも含め仕事のために持参してるお風呂セットを使った。
 普段からガーベラさん、ここでお風呂はいってるのよね。ところどころしっかりと男の人らしい備品があって。生活感が……。まって、ダメよアイリス、意識するとまともでいられなくなる。
 結局、私は普段三人と一匹で入ってる時間よりかなり短く浴室を出た。喋ったり構ったりしてくる相手がいないのと、やっぱり意識しちゃったから、早めに。
 そして私は念のために下着をよく選んでから寝巻きに着替えた。冒険者のお姉さん方も、男の人の家に行くことがあったなら下着が大事だっていっていた。だから持ってる中でおしゃれなやつを。
 私は脱衣所から出た。


「ガーベラさん、お先にです。どうぞ」
「……あ、ああ、うん」
「どうされました?」
「いや、べ、別になんでもないよ」


 どうしてドギマギしてるのかしら。あ、私が普段見せない寝巻き姿が珍しいとか? でも初めてじゃないわよね、たしか。付き合う前に一緒に仕事した時に普通に着ていた覚えがある。慣れてないのは確かだからその線で考えた方がよさそう。
 まあ、ガーベラさんも男の人だし、私の普段見せない姿に反応するくらいは問題ないですとも。むしろ、この先のこと考えると無反応じゃなくてよかったと考えるべきかしら。
 ガーベラさんはドギマギした様子のまま浴室へ行き、そして二十分くらいで戻ってきた。まあ男の人だしこんなものなのかな。そしてガーベラさんもラフは格好してる。普段せない腕や脚の露出……! なんだかドキドキしてくる。私が可愛い女の子以外にドキドキすることなんてあったんだと、正直驚き。


「よく鍛えてますね」
「あ……ああ、ああ! そりゃ当然だよ、仕事が仕事だし」
「ですよね。ちょっと触れてみてもいいですか?」
「えっ、いいけど」


 私はガーベラさんの腕と胸筋あたりをペタペタと触れてみる。見た目通りガッシリしていた。細身だけどがっしり。お父さんと同じタイプね。


「普段はどんなトレーニングを?」
「じゃあこれから寝るまでの話題はそのことにしようか」
「ええ、良いですね!」


 私達の会話は想像していたよりかなり盛り上がった。なんだかガーベラさんの鍛え方が私が想定しているものに近かった。やっぱり気があうのね、私達は。そんな会話が一区切りつく頃にはもう普段うちの双子が眠る時間より一時間も過ぎていた。普段ならむしろギルドでガーベラさんとの会話が盛り上がってきた頃かな。


「ちょっと早いけど、今日は色々あったし、もう寝てしまおうか」


 ガーベラさんはそう言った。……さて、ここまでたっぷりと覚悟する時間はあったはず。この家に泊まることにした理由のもう一つを、実行しなければならない。ガーベラさんに後悔して欲しくないから。


「ここに寝袋並べて寝る? 仕事の時は間に仕切りあったけど……今日はいるかな?」
「も、もうそんな他人行儀な仲ではありませんので、い、要りません、よ? そ、それより、ど、どど、どうせならリビングじゃなくてガーベラさんのし、寝室で寝てみたいです」
「そうなの?」
「は、はいっ。見られてまずいものがなければ、ですが」
「……うーーん、じゃあちょっと日記だけしまってくるよ」
「わ、わかりました」


 ガーベラさんは自室兼寝室に入り、数秒で戻ってきた。日記以外には見られて困るものはないみたい。……何かあるんじゃないかと勝手に疑っていて、本当に申し訳なく思う。
 

「どうぞ」
「お邪魔します……」


 お部屋もリビングと同じように非常にシンプルだった。小さめの本棚と小さなテーブル。置いてあるのはこのくらい。身だしなみを整えるための用具は脱衣所にあったし、ここにはどうやら本しか置いてないみたい。あとは男の人一人分のベッド。
 つまりはこの家全体で必要なものしか置いてない。想像以上に娯楽がなさすぎてさすがの私も驚いてる。


「整理整頓が行き届いてますね……」
「いやぁ、物がないだけだよ」
「……すいません、正直少し驚きました」
「実はいつもアイリスと居る時以外は仕事してるか鍛えてるかのどっちかなんだ。だから少しずつ物を増やそうと思ったんだけど、うまくいかなくて」
「なるほど」


 その気持ちはすごくよくわかる。私も三人と一匹で住んでるから人形などの物が人並みにあるのであって、一人暮らしなら物のない生活を送っていたでしょうし。ここまで物がないかどうかはわからないけれど。


「さ、寝ようか。おかげで寝袋を敷けるスペースだけはあるよ」
「……そうですね」


 いよいよ……か。口で説明するのは苦手だし、私は恋愛に対しては不器用だからどうしたらいいかわからない。だからこそ、私なりのやり方で。
 寝袋を取り出して準備し始めたガーベラさんを見つめながら、私は彼のベッドの上に座った。


「ん? やっぱりベッドでねる? 枕は変えたほうがいいと思うけど」
「いえ、あの……ガーベラさん、ちょっとこっちに」
「どうしたの」


 寝袋の準備をやめて、ガーベラさんが心配そうな顔でこちらにやってくる。彼が十分な私の範囲まで入ってきたその瞬間を狙い、私はガーベラさんの腕を掴んで投げ、そのままベッドに横たわらせた。私がガーベラさんを押し倒したような感じになる。


「……? んん? アイリス……?」
「……ガーベラさん」
「ほ、本当にどうかしたの……。さ、流石にこの姿勢は俺でもまずいというかなんというか」
「ガーベラさん、私と生きているうちに、こうして触れ合えるうちに、絶対後悔のないように、セッ……いや、性……いや……その……交わ……いや……そう、よ、よよ、夜伽、しましょう」
「はっ? えっ?」
「わわわわわ、私はほっほほ、本気です……!」


 ガーベラさんはキョトンとしている。


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