上 下
72 / 136
第二部

第57話 俺達と魚介と刃物のダンジョン 前編

しおりを挟む
「また空飛んでるな」


 次に着いたフロアで遭遇した魔物は、ソードウォと同様で魚のくせにスイスイと宙を泳いでいた。
 ただ、そのサイズはソードウォとは違いそこそこ大きい。
 先程のイカほどじゃないが、尻尾を含ない場合のロナ一人分の体長はあるんじゃないだろうか。

 蒼い皮にしっかりとした尾鰭と背びれ、そしてそのまま長剣がくっついたかのような鼻先……。
 こいつも、俺は見覚えがある。たしか ────。


「カージキリング……Cランクのお魚ッ……!」
「そしてかなりの高級食材、だな」
「う、うんっ!」


 ロナの言う通り、カージキリングで間違いないだろう。
 生物を見境なくあのツノっぽいので切り裂いてまわる海の危険生物らしいが、その肉の味はかなり旨い。
 特にアイツはソテーやガーリックステーキが美味だ。何度か食べたことがあるからわかる。

 あれは俺も調理方法を知ってるし、あのデカさなら丸ごと調理すればロナも満足できるだろう。
 買えば一匹150万ベルほど……ここはなんとか、過食部が多くなるよう綺麗に倒したいところだが。


「ロナ、ここは俺に任せてくれ」
「ん、わかった!」


 俺は『ハムン』を構え、たった俺と互角にしたカージキリングの頭を狙って光の矢を撃ち込む。
 『ソーサ』で追尾しながら撃ったんだ、狙い通り脳天に突き刺さり、カージキリングは地面へ落下させられた。
 流石は俺だ。

 とはいえ倒し切れはしなかったようで、砂の上でピクピクと体を震わせている。故に、ちゃんとしたトドメはロナに殴打によってつけてもらい、こうして綺麗な形で食材を確保することができた。


「これも、美味しいとは聞いてるけど……」
「ああ、かなりな。とはいえこの場で調理は無理だな。ちゃんとした場所で、ちゃんとした器具を使わないと。これは持って帰って、拠点を手に入れたら、その時に改めて食べようぜ」
「うん!」


 その時までのお楽しみ、ってやつだ。
 俺は『シューノ』に無理やり、ひと一人分の大きさがあるこのカージキリングを押し込んでしまった。
 本当に腐らないんだよな……? 大丈夫だといいんだが。

 そのフロアには他に何もなさそうだったので先に進むと、また二つに分かれた分岐点があった。
 再び『ラボス』をかざすと、やはり反応があった……が、なぜかその橙色の光の線が二本出て、同じ方向を指しているんだ。
 今までにないパターンだな。


「これは、こっち側に宝箱が二つあるってことでいいんだな?」
「うん、そうじゃないかな」
「じゃあとりあえず行くか」


 光に導かれるままに先を進むと、途中で再び三匹のソードウォに遭遇。今度はあまり食材として無駄にならないように倒してもらい、全て回収する。ふふ、儲けたぜ。

 ……と、まあここまではいいんだが、なんとこの部屋の先にさらに分岐点があったんだ。
 それが四つにも分かれている上、『ラボス』の光はどうやらそのうち二点を指し示している。


「入り組んでるな。流石に中距離となると進むのだけでも一筋縄じゃいかないか」
「そだね。んー、でも別に時間はたっぷりあるし、魔力にも体力にも余裕はあるから、全部の道に進んでみてもいいんじゃないかな」
「そうか? なら、一旦来た道を戻って、とりあえず前の分岐のもう一方を見てみるか」
「うん、そうしよう」


 そうして一旦引き返し、先程は進まなかった方の道をいく。
 結論を言えば行き止まりだった。
 しかも壁以外にはなんにも無い。せめてトラップ代わりに魔物くらい居てくれれば、ロナの経験値にできたんだが……こういうこともあるんだな。

 というわけで、俺たちは四つの分岐の前に戻り、左から順番に見ていくことにした。
 しらみ潰しに歩くってのは中々クレバーじゃないが、まあ、俺達がわかるのは宝箱の場所だけだからな。仕方ないだろう。

 最左の道はいきなり次の分岐に当たったので、その先の探索は後回しにして、次に二番目。ここと三番目は『ラボス』が光を指しているんだ。

 二番目の道を進むと、その奥地に銀色の宝箱があった。
 ……だが、そこはほぼ全方位を剣のような針の山で囲まれており、普通に人の手で取り出すのは明らかに不可能な様子だ。
 ま、この紳士の手にかかれば、クールに『ソーサ』で取り出して、特に何事もなくゲットなんて朝飯前な話だったが。

 そして、次の宝箱のある三番目の道。
 その行き止まりは今までより広い部屋であり、そこには古屋一軒分はありそうな大きさの壺が、横向きに倒れていた。
 
 宝箱は見当たらない。おそらく壺の中にあるのだろう。

 どう見てもこれも罠なので、どうにかして『ソーサ』で引っ張り出せないか考えていたところ。
 ロナが急に俺を守るように立ちはだかり、ツボに向かって剣を構えたのだった。


「……生き物がいる臭いがする。ザン、あの中に魔物いるよ」
「そうか。じゃあ出てきてもらうかな」


 壺の中に光の矢を何発も撃ち込み、中に居る何かを煽る。

 やがて俺の狙い通りに釣られて出てきたのは、巨大な蛇系……じゃなくて、それとは別種の、平たくて、ニョロニョロとしている何かだった。
 壺から全身を出し切ってはいないようだが、その出してる分だけでも、それがどれほど異様な長さを誇っているか、安易に理解できてしまう。
 いやぁ、なかなかに気色悪いぜ。なんかヌルヌルしてるし。

 それに、だ。
 一体どういう身体のしまい方をしているのだろうか、頭と一緒に尻尾らしきものも出し、こちらにその先端を向けてきやがるんだ。
 その先端は極めて鋭利であり、まあ……このダンジョンのテーマの一つであろう刃物状になっているのは明白だった。

 とても強そうだ。正気のない目と、鋭い前歯も相まって。
 おそらく違うが、ここのボスなんじゃないかとすら思えてしまう。

 ……もう俺とステータスは一緒だから、なんの問題もないけどな。








=====

昨日はお休みしてしまって申し訳ありませんでした。
なんか休む時って毎回3のつく日なんですよね。
意図は全くしてないのですが……。

ちにみに今回の初出の魔物はカジキとウツボです。
私はどっちも食べたことありません。

非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!
しおりを挟む

処理中です...