上 下
125 / 136
第二部

第109話 俺達とヤバい宝具 後編

しおりを挟む
「あわわわわ」
「まだメインは残ってるんだ。一旦深呼吸して立て直そうぜ」


 そう告げるとロナは首を縦に激しく振ってから、かなりぎこちない深呼吸を始めた。


「すー、す、はぁぁ……す!」
「……落ち着いたか?」


 そう問うと、彼女はさっきと同じように首を激しく振る。うん、どうもまだ無理みたいだな。

 一方で俺はなんだかんだクールを取り戻してきたぜ。自分より興奮している人間を見るとそれが引っ込む……まあ、稀にあることだろう。

 というわけで、改めてメインであるお姉さんがくれたパンドラの箱を見ていくか。
 この箱はあのレディが中身を決めてくれたというだけあって、四つあるその全てが宝具のようだ。

 内容は腕輪が一つ、赤い布が一枚、赤い球体が一つ、札が一枚となっている。
 まずは細身だがどこか知的さを感じる、腕輪から鑑定しよう。


-----
「魔導の腕輪 マージオウ」(宝具)

 装備した者の魔力強度の数値が半数分上昇する。
-----


 ……なるほど。
 つまりは『リキオウ』の魔力強度バージョン……か。今ちょうど欲しくなっていたやつだ。

 お姉さんが『マレス』とこの宝具が相性抜群であることを分かってて入れてくれたんだろう。至れり尽くせりとはまさにこのこと。

 本来ならもっとこう、『リキオウ』を手に入れた時くらいテンションを上げるべきなんだろうが、気持ちをクールダウンさせたばかりだとそれも難しいもんだな。

 ただ、めちゃくちゃ嬉しいのに変わりはないぜ。


 次は赤い布だ。

 広げてみると、肩や袖あたりまで被るタイプのマントであることがわかった。
 金色の刺繍や装飾も美しい、宝具でなくとも芸術的だと評されそうな逸品だ。

 そして、肝心の効果はこのようになっていた。
 

-----
「不死聖鳥のマント ルフェ二ス」(宝具)

 装備者を外部からの衝撃・魔法からある程度身を守る。
 また、火属性と光属性の耐性を極大アップする。

 このアイテムを装備している間、装備者は暑さや熱量のある環境でもある程度活動できるようになる。

 装備者が攻撃を受けた場合、その傷が癒えるまで装備者の魔力を自動的に消費し、回復魔法扱いで回復することができる。この効果は任意で発動の有無の切り替えができる。
-----


 最初の一文はたしか、宝具に限らず「鎧代わりになる布防具」に共通で書かれている内容だったはずだ。
 つまりこのマントは俺達にとって初めての、盾以外のちゃんとした防具の宝具ってことになるのか。

 とにかく、効果が強いことばっかり書いてるな。
 特にこの暑さを凌げる能力なんて、魔力消費すら必要ないようだ。

 昨日手に入れた、寒さを凌ぐ効果を持つ『雪兎の御守石 サムウサ』はその効果を発動させるのに十から六十の魔力が必要だったはず。……宝具の格差って結構すごいよな。

 そんでもって、自動で回復する効果もバカにできない。
 俺が装備すれば、一切の制限なし、予備動作も無しで無限に回復できることになる。

 おそらく、これがお姉さんの言っていた俺に渡したかった宝具なんだろう。たしかに俺と相性がいい。

 ただな、鎧代わりになる宝具はなるべく前線を張るロナに渡したいところだ。ただでさえレディが傷つく機会は減らしたいわけだし。

 まぁ、これは二人で要相談と言ったところか。
 ロナも俺に装備していてほしいと言うだろうしな。


 で、三つ目の赤い球体は……これは御守り系か? 

 なんだか、お姉さんが自分の本体として取り出して、ロナに破壊させた玉に似てるような気がするな、これ。
 アレをよりお手頃サイズに縮小した感じと言うべきだろうか。

 そう考えたら、これも何か物凄い効果を秘めている気がしてきたが ──── 。


-----
「蘇生呪玉 リデイ」(宝具)

 このアイテムの所有者となるには、血と魔力を注ぐ必要がある。
 所有者になった瞬間、称号【無防御の呪い】と称号【無耐性の呪い】を獲得する。

 このアイテムは所有者が完全に息絶えるか、所有権を手放した場合に効果を無くし崩壊する。

 所有者は二日に一度、このアイテムに2400の魔力を消費せねばならず、所有者である限りこの処理は自動で行われる。
 足りない場合は所有権を放棄したことになる。
 この効果によって消費した魔力は、日をまたぐまで自然に回復することができない。

 所有者は一日に一度、死亡した場合に任意のタイミングで蘇ることができる。その場合、死の原因となったものは取り除かれる。
-----


「な、なな、なんじゃこりゃあッ……!」
「ふぇ⁉︎」


 おおお、思わず紳士的でない声が出てしまった……。
 取り戻したばっかりのクールがどっか飛んでいっちまったぜ。

 つまりこれは簡単に言えば、所有者となるのにも維持するのにもかなりのリスクを負う必要がある代わりに、一日一回死ななくなるっていう効果の宝具だろう。

 バッ……バカみたいな効果してやがるなァ?
 こんな……もう……なんつーか、人の世に存在していいものなのか? 

 しかも、だ。
 やっぱり、俺ならこの玉に支払うべき代償を、ほぼ完全に帳消しにできてしまうんだ。

 呪い無効だから、防御力の値が1になる【無防御の呪い】と、ありとあらゆる事象に耐性がなくなる【無耐性の呪い】を受け付けないし……。

 んでもって、愛帽ルナルのおかげで2400の魔力消費というデタラメな維持コストも1になる。一日それが回復しなくなるってのも関係ない。

 さっきは『ルフェニス』っていうマントがハーピィのお姉さんが俺向けのものとしてくれたメインの宝具かと思ったがまるで違った。
 この『リデイ』こそが本命。マントがおまけだったんだ。
 
 たしかに、たしかにな。
 俺は数多くの呪いのせいで、非常に脆くて死にやすいよ? それこそが一番の弱点だ。

 そして、この宝具はその一番の弱点をカバーできる……あのレディもそれをわかってて、これをくれたんだよな。心遣いは有難いぜ。

 でも……倫理的にどうなんだ?

 俺は本来、使えるものは使うべきだし、貰えるものは貰うべき、倫理や情は一旦無視して利益から考慮する……そんな人間だ。

 全くもってジェントルじゃないから口に出さないし、悟られないようにこそしてるが、そういう考え方なんだ。本当は。

 ただ、そんな俺でさえ、これはちょっと流石に使うのを躊躇ちゅうちょせざるをえないな。


「そ、その赤い玉? だよね、見て驚いてたの。どういう効果だったの?」


 いつの間にか落ち着きを取り戻した相棒が、そう質問を投げかけてくる。
 この純粋無垢なレディに、生き死にを簡単に扱うコイツの内容を教えてしまっていいものなのだろうか。

 いや……ロナに限った話じゃない。
 これは根本的に、俺の力と同じくらい世間から隠しておくのがベストかもしれないな。
 

「……悪いが話すわけにはいかない、秘密にさせてくれ。そして俺はこれを封印しようと思うぜ」
「そのくらい強すぎるってこと? この『マレス』より?」
「強い訳じゃないが、凄いものではある。その髪飾りとは方向性が違うんだ。世間に広まったらめんどうくさいことになるタイプのやつだな」
「あぁー、そっか。じゃ、仕方ないね」


 俺という前例があるからか、ロナはすんなり納得してくれた。話が早くて助かるぜ。
 というわけで、俺はこの『リデイ』を『シューノ』に放り込む。

 これでひとまず安心か? 
 まあ、これを使わなきゃいけない状況なんて来られても困るしな。できれば墓場まで持っていきたいもんだぜ。



=====

すいません、寝不足&ネタ切れなので1~2日お休みします。
※追記 両方悪化したのでもう数日お休みします。

非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!
しおりを挟む

処理中です...