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第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者
まもらねば ならぬ とち
しおりを挟む「森も、一部が焼け野原へと変わり果てました。幸い、村人に負傷者はおりませなんだ」
話し合いに応じなければ力でねじ伏せようというのか。
ファルメールのおっさんが見せていた穏和なイメージが自分の中で崩れていく。
俺は、魔法使いも勇者と同じく、正義のために力を行使しなければならないと思う。
だが、悲しいかな……魔法使いも傭兵と同じく金で動く職業なのだ。
いや、中には正義のために力を奮う人もいるだろうが、みんながみんな、そうではない。
今回のような地上げ屋を請け負う魔法使いも存在する。
もし、この場にそいつがいたら、間違いなく俺は殴り倒してるけど。
「新しい土地に移り住めば良いと思われるかもしれませんが、ここは絶対に守らなければならない土地なのです。我ら一族の聖地なのです……」
声が震えた。
小さな背中が細かく揺れている。
泣いているのだろうか。
「人々の聖地を奪おうとするとは、不届きな者だ」
俺の隣でバルトが怒りをはらんだ声を上げる。
「それに我らは、この土地でしか子を授かることがないのです」
「え?」
なんの冗談かと我が耳を疑った。
首を傾げると、カウロはもう一度、
「外の土地では子が産まれないのです」
「そ、それは呪いですか?」
信じられない。
その土地限定の子孫繁栄なんて、嬉しくもないご当地ルールじゃないか。
「それは我らにも」
力無く老人の首が横に振られる。
これは禁呪の一種と考えて良さそうだ。
「この土地で育ったキャベ……」
「長老! またファルメールのとこから傭兵が送られてきたぞ! 恐らく勇者だ。こちらに向かっていると、森の見張り台から連絡が入った!」
カウロの言葉は、目の前に飛び込んできたヒゲ面オヤジの声によってさえぎられた。
キャベ?
「総員、直ちに迎撃態勢に入れぇいっ!」
うぉぉおお、びっくりした!
突然、カウロが大声を上げた。
小さい体のどこに、こんな声を出せる力があるのか。
カウロの号令に村中がざわめき始めた。
家々から男達が飛び出してきたかと思えば、森の中へと消えていく。
「すぐにアレの用意を! 森でくい止めるのだ! 村に近付かせるな!」
「ラジャ!」
ここはどこの司令本部ですか。
小さなまんじゅうのように丸まっていた老人が急に大きく見えた。
「あたしもしゅつじんする! だれぞ、うまをひけぃ!」
ノエルは大声を上げて裏に向かっていく。
「敵か?」
なぜか嬉しそうに声を弾ませたのはバルトだ。
恐らく、エルフに犬のような尻尾が存在したなら、はち切れんばかりに振っていただろう。
「また、駆け出しの勇者か、傭兵ならば良いが……」
誰に言うでもなく、カウロの口からはぼやきが漏れる。
重い口調には疲労が感じられた。
「カウロ司令」
この場の空気に飲まれつつ、俺は控えめに手を挙げた。
「何かね、アルカ君」
付き合いのいい老人である。
「ファルメール準男爵のところから送られてきたのが勇者なら、今回ばかりは相手が悪い」
戦いが始まってしまう前に、現場へ向かわなければならない。
不思議そうに首を傾げたカウロは小さく「あっ」と声を上げた。
俺が何者で、誰と共に来たのか気が付いたようだ。
「そう、相手はレジェンドクラスの勇者だということです」
俺は重々しく頷いた。
アイツ等の一撃に村人達が巻き込まれたら大変だ。
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