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10 祝言
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浩一の提案で当時にしては珍しく、キリスト教会で結婚式を挙げることとなった。
参列者は珠子と一樹のみだ。
親戚と使用人の目を気にし、派手にしたくないという気持ちと、
葉子の自分のために贅沢をしてほしくないという希望で、隣町でひっそり行われる。
衣装も葉子のためによそ行きのワンピースを仕立てた程度で、浩一もスーツを用意した。
一樹は学生服を着、珠子は初めてのワンピースに興奮をしている。
タクシーを呼び、少し狭い車内でやはり初めて乗る自動車に珠子は、はしゃぎ窓の外の流れる景色を見ていた。
「兄さま、見て。みんなゆっくりねえ」
「車って早いね」
一樹も興味津々で、運転手の動作を注意深く見ている。
「そろそろ、着くよ」
浩一が見えてきた金属製の十字架を指さした。
車を降りて、教会の前に立つ。
小高い丘に建つ細長く白い建物は見慣れない建築で皆、下からすくいあげる様に屋根の上の十字架まで見上げた。
重々しい扉を押し開くと規則正しく長椅子が並べられ、中央に一人の外国人が立っていた。
長身で細長い手足、髪は薄く、ほぼ白髪の中にキラキラと金色の髪が混じっている。
珠子は薄いブルーの瞳を珍しそうに見ている。
「ヨウコソ」
初老の宣教師は穏やかな微笑みを浮かべ歓迎する。
「沢木浩一と妻の葉子です」
浩一は深々と頭を下げた。
「このタビはおめでとうゴザイマス」
流暢な日本語を話すこの神父は、もう日本で十年生活をしながら布教活動をしているらしい。
「早速ですが、よろしくお願いいたします」
「こどもたちは席についてくだサイ」
珠子は小さなバッグから白い折りたたまれた布地を取り出し、一樹に手渡した。
「あの、母さん、これ」
「なあに?」
葉子はふわっと受け取り広げた。純白のマリアベールだ。
「まあっ!」
三尺程度の楕円の白いシルク地の周りに、レースが縁どられている。
少し背が伸びた一樹は、少し腰をかがめた葉子の頭にそっと乗せた。
「ウツクシイですね」
神父も目を細めて喜んだ。
「布は僕が買って、珠子さんがレースを縫い付けたんです」
「そうか。一樹くん、珠子、ありがとう。とても綺麗な花嫁さんだ」
葉子の目に光る涙は真珠のようだった。
「デハ。式を始めまショウ」
珠子と一樹が席に着き、二人を見守っていると、いつの間にか隅のオルガンに、
やはり年老いた修道女が座っていて、美しい音楽が優しく鳴り響いた。
神父は浩一と葉子の間に立ち何やら言い始め、二人は「誓います」と言いあったのち口づけをした。
珠子はそんな二人を眩しく見つめる。(どんな時でも一緒なのね)
聖句の難しい言い回しを全て理解はできなかったが、とても美しく感じた。
式はあっという間に終わったが感慨深く心に残るものだった。
帰り際、神父が「ヨカッタラ、またおいでください」と挨拶した。
「ぜひ」
浩一と葉子は信者でもないのにこうして受け入れてくれる懐の深さに感じ入る。
珠子と一樹にはそもそも信仰心も宗教に対する感覚も、一般の人と何ら変わらず薄いものだったが、
神父の物腰や慈悲深さを子供心に感じていた。
「教会っていいところね。お父さま」
「うん。イエス様はね。人は皆、平等で、皆、神の子だと教えられたそうだよ」
「ビョウドウ……」
珠子も一樹もピンとこない。
「いつか本当にそんな時代が来ると思うよ」
そういう浩一の隣で優しく微笑む葉子を見ながら、珠子は教会にあったマリア像に似ていると思っていた。
そしてこの婚礼の水面下で親族の思惑が画策されていることをもちろん珠子は何も知らない。
参列者は珠子と一樹のみだ。
親戚と使用人の目を気にし、派手にしたくないという気持ちと、
葉子の自分のために贅沢をしてほしくないという希望で、隣町でひっそり行われる。
衣装も葉子のためによそ行きのワンピースを仕立てた程度で、浩一もスーツを用意した。
一樹は学生服を着、珠子は初めてのワンピースに興奮をしている。
タクシーを呼び、少し狭い車内でやはり初めて乗る自動車に珠子は、はしゃぎ窓の外の流れる景色を見ていた。
「兄さま、見て。みんなゆっくりねえ」
「車って早いね」
一樹も興味津々で、運転手の動作を注意深く見ている。
「そろそろ、着くよ」
浩一が見えてきた金属製の十字架を指さした。
車を降りて、教会の前に立つ。
小高い丘に建つ細長く白い建物は見慣れない建築で皆、下からすくいあげる様に屋根の上の十字架まで見上げた。
重々しい扉を押し開くと規則正しく長椅子が並べられ、中央に一人の外国人が立っていた。
長身で細長い手足、髪は薄く、ほぼ白髪の中にキラキラと金色の髪が混じっている。
珠子は薄いブルーの瞳を珍しそうに見ている。
「ヨウコソ」
初老の宣教師は穏やかな微笑みを浮かべ歓迎する。
「沢木浩一と妻の葉子です」
浩一は深々と頭を下げた。
「このタビはおめでとうゴザイマス」
流暢な日本語を話すこの神父は、もう日本で十年生活をしながら布教活動をしているらしい。
「早速ですが、よろしくお願いいたします」
「こどもたちは席についてくだサイ」
珠子は小さなバッグから白い折りたたまれた布地を取り出し、一樹に手渡した。
「あの、母さん、これ」
「なあに?」
葉子はふわっと受け取り広げた。純白のマリアベールだ。
「まあっ!」
三尺程度の楕円の白いシルク地の周りに、レースが縁どられている。
少し背が伸びた一樹は、少し腰をかがめた葉子の頭にそっと乗せた。
「ウツクシイですね」
神父も目を細めて喜んだ。
「布は僕が買って、珠子さんがレースを縫い付けたんです」
「そうか。一樹くん、珠子、ありがとう。とても綺麗な花嫁さんだ」
葉子の目に光る涙は真珠のようだった。
「デハ。式を始めまショウ」
珠子と一樹が席に着き、二人を見守っていると、いつの間にか隅のオルガンに、
やはり年老いた修道女が座っていて、美しい音楽が優しく鳴り響いた。
神父は浩一と葉子の間に立ち何やら言い始め、二人は「誓います」と言いあったのち口づけをした。
珠子はそんな二人を眩しく見つめる。(どんな時でも一緒なのね)
聖句の難しい言い回しを全て理解はできなかったが、とても美しく感じた。
式はあっという間に終わったが感慨深く心に残るものだった。
帰り際、神父が「ヨカッタラ、またおいでください」と挨拶した。
「ぜひ」
浩一と葉子は信者でもないのにこうして受け入れてくれる懐の深さに感じ入る。
珠子と一樹にはそもそも信仰心も宗教に対する感覚も、一般の人と何ら変わらず薄いものだったが、
神父の物腰や慈悲深さを子供心に感じていた。
「教会っていいところね。お父さま」
「うん。イエス様はね。人は皆、平等で、皆、神の子だと教えられたそうだよ」
「ビョウドウ……」
珠子も一樹もピンとこない。
「いつか本当にそんな時代が来ると思うよ」
そういう浩一の隣で優しく微笑む葉子を見ながら、珠子は教会にあったマリア像に似ていると思っていた。
そしてこの婚礼の水面下で親族の思惑が画策されていることをもちろん珠子は何も知らない。
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