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しおりを挟むふと少女時代、一樹と出会い、二人で夜を過ごした日々を思い出す。
銀木犀の下で優しい甘い香りを嗅ぎながら外国のおとぎ話の話をした。
一樹は澄んだ綺麗な声で何か詩を歌ったりした。
最初で最後の冒険。
珠子の目の前が涙で滲む。
今まで異性に恋をすることなどなかった。
きっと一樹に恋をして気づかないまま兄妹になってしまったからだろう。
初めて気づくこの気持ちが結婚初夜だとは何という皮肉か。
(ううん。これでよかったの……)
彼女が意識を失う前に『兄さまっ』と小さく叫ぶのが聞こえた。
おそらく本人に自覚がなかったのだろうがこの契りで、想いが表面化しているかもしれないと文弘は思った。
彼女を心から愛せはしないだろうが大事にはできると思う。
深窓の令嬢と名高い子女でも夜会で会うとそうではない。
頬を染め、初めて恋をするようなそぶりを見せ、文弘に誘惑されたかのような態度を取り、簡単に身体を開く。
恐らく珠子より清い娘などそうそう居ないであろう。
無垢な寝息を立てる珠子を見ながら、共犯者を得たような気分で文弘も目を閉じた。
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