33 / 77
33
しおりを挟む
木材商の娘である珠子は火の元には幼いころから厳しくしつけられていたこともあり、普段はおっとりしているが火災による反応は過敏であった。
幸い沢木屋から火災を出したことはないが、それに対する対応は心得がある。
熱気を感じる前に庭の噴水にザブリと身を浸し濡れたからだで妾宅へ向かった。
「ああっ!!」
焼け落ちる平屋の妾宅から、キヨが髪を炎で燃やしながら、吉弘を抱いて這う這うの体で出てきた。
珠子は濡れているガウンをキヨの頭からかぶせ鎮火を試みる。
「あぁ……珠子、お、くさま、吉弘を……」
髪が焼け縮れ、顔の半分を赤黒くしたキヨが真綿の着物に包まれた吉弘を差し出す。
その腕は着物と肉の焼け焦げた匂いを発する。
「キヨさん、大丈夫よ。よく眠っているだけよ」
「よかった……」
はあっーっと大きな息を吐き出してキヨは気を失った。
「キヨさんっ、しっかりして!」
車の音が聞こえ、消火作業がやっと始まった。
妾宅は全焼、藤井邸は一部屋、高子の部屋が焼け落ちている。
珠子はすやすや何事もないように眠る吉弘を抱いて、ぼんやりと火の消えた焼け跡を眺めた。
消防に当たった警防団員が大きな声で珠子を呼んだ。
「奥様!こちらへ!」
珠子はハッとして団員の男のもとへ駆け寄った。
白い煙がくすぶっている中、高子の部屋へ向かう。
「吉弘さんをお願い」
「は、はい」
メイドに眠ったままの吉弘を抱かせ、珠子は革靴の裏に熱気を感じながら煙を手ではらい、しゃがんだ男の後ろに立った。
「だんな様かと……」
「はあぁっ!」
文弘と高子だ。
もうすでに息絶えている。
二人は炎ではなく煙にやられたのであろう。
衣服も毛髪も焼け焦げたところはほとんど見当たらず眠っているように見える。
珠子はがくがくと膝を震わせ、近づいて二人を見た。
高子の上に文弘が覆いかぶさっている。
恐らく彼が母親を守ろうと身を挺したのであろう。
「あっ」
小さくあげた珠子の声に男が「どうなさいましたか?」と尋ねた。
「い、いえ。なんでも……。夫と義母です」
気を失いそうになる珠子の目に文弘と高子の手が絡み合うように繋がれていて、口元に微笑みが浮かんでいるのが見えた。
幸い沢木屋から火災を出したことはないが、それに対する対応は心得がある。
熱気を感じる前に庭の噴水にザブリと身を浸し濡れたからだで妾宅へ向かった。
「ああっ!!」
焼け落ちる平屋の妾宅から、キヨが髪を炎で燃やしながら、吉弘を抱いて這う這うの体で出てきた。
珠子は濡れているガウンをキヨの頭からかぶせ鎮火を試みる。
「あぁ……珠子、お、くさま、吉弘を……」
髪が焼け縮れ、顔の半分を赤黒くしたキヨが真綿の着物に包まれた吉弘を差し出す。
その腕は着物と肉の焼け焦げた匂いを発する。
「キヨさん、大丈夫よ。よく眠っているだけよ」
「よかった……」
はあっーっと大きな息を吐き出してキヨは気を失った。
「キヨさんっ、しっかりして!」
車の音が聞こえ、消火作業がやっと始まった。
妾宅は全焼、藤井邸は一部屋、高子の部屋が焼け落ちている。
珠子はすやすや何事もないように眠る吉弘を抱いて、ぼんやりと火の消えた焼け跡を眺めた。
消防に当たった警防団員が大きな声で珠子を呼んだ。
「奥様!こちらへ!」
珠子はハッとして団員の男のもとへ駆け寄った。
白い煙がくすぶっている中、高子の部屋へ向かう。
「吉弘さんをお願い」
「は、はい」
メイドに眠ったままの吉弘を抱かせ、珠子は革靴の裏に熱気を感じながら煙を手ではらい、しゃがんだ男の後ろに立った。
「だんな様かと……」
「はあぁっ!」
文弘と高子だ。
もうすでに息絶えている。
二人は炎ではなく煙にやられたのであろう。
衣服も毛髪も焼け焦げたところはほとんど見当たらず眠っているように見える。
珠子はがくがくと膝を震わせ、近づいて二人を見た。
高子の上に文弘が覆いかぶさっている。
恐らく彼が母親を守ろうと身を挺したのであろう。
「あっ」
小さくあげた珠子の声に男が「どうなさいましたか?」と尋ねた。
「い、いえ。なんでも……。夫と義母です」
気を失いそうになる珠子の目に文弘と高子の手が絡み合うように繋がれていて、口元に微笑みが浮かんでいるのが見えた。
0
あなたにおすすめの小説
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母、雪江は大学教授であり、著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚
ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。
五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。
ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。
年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。
慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。
二人の恋の行方は……
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話
紫さゆり
恋愛
オムニバス形式です。
理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。
大人の女性のストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる