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レッドシャドウ 田中赤斗(たなか せきと)編
5 おじいさんと茉莉
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早朝、茉莉は『もみの木接骨院』前で桃香を待つ。
「ドキドキするなあ。太極拳を教えてくれるおじいさんってどんな人だろ。赤斗さんも、桃香さんの彼も習ったみたいだし。きっと渋くてカッコイイんだろうなあ」
あれこれ想像していると、薄いピンク色のカンフー服を着た桃香がやってきた。
「あ、おはよう。茉莉ちゃんはやいのね」
「はい! ちょっと興奮しちゃって。その服かっこいいですね。本格的ー!」
「うん。せっかく続けてるから買ったの。でも、そのジャージでいいと思うよ」
「ちょっと、キツイんですけどね」
「平気よ。きっとすぐぶかぶかになるよ」
「だといいなあ」
「じゃ、こっちね」
接骨院の裏手に回ると綺麗に整えられた芝生の庭があり、そこで白い、やはりカンフー服を着た老人がゆるゆると流れる水のような動きを見せていた。
「おはようございます!」
「んん? おはよう。ああ、この娘かの?」
「そうです。こちらが太極拳を教えてくれる高橋朱雀先生。おじいさんって呼んでるけどね」
「伊藤茉莉です。よろしくお願いいたします!」
「うんうん。なかなかダイナマイトなお嬢さんじゃの! ふぉっふぉっふぉ」
まず呼吸を整えながらゆっくりと真似しながら動く。茉莉は慌ただしい動きや素早い動きが得意だったが、このようにゆるゆる動く運動をするのが初めてで、逆によく汗をかいた。
「ほほう。マリちゃん、なかなか筋がいいぞ」
「え? ほんとですか?」
「ふぉっふぉっふぉ。うんうん、もともとの筋肉がしなやかだの」
「いいなあ。茉莉ちゃんはスポーツマンなんですよ」
「いやあ。もう今は全然してないんですけどねえ」
「うんうん。したくないときはせんでええ。したくなったらすりゃあええ」
一時間ほどで終了すると、茉莉はなんだか心も身体もすっきり爽快だった。
「はあー。なんか、きもちいいー」
「でしょ?」
「はい! ゆっくりすぎて出来るかなあって心配でしたけど、なんか不思議な気持ち良さです」
「そうか、そりゃあ良かった。人生慌ててはいかんぞ。急ぐ時もあるがな、こうして自然に任せてゆったりすると忙しい時でも余裕が生まれるからの」
「なるほどおー」
「さて、そろそろ帰って朝ごはん作らないと。茉莉ちゃんも一回帰るでしょ?」
「はい。お店は10時に行けばいいので」
「ああ、赤斗のところに勤めておるんじゃったな。マリちゃんに会いに今度食べに行こうかの」
「ありがとうございます!」
「ふぉっふぉっふぉ。元気じゃのう。死んだばあさんにそっくりじゃの」
「え? 亡くなったおばあさん?」
「うんうん、腰回りの逞しさときたら」
そこへ桃香が「おじいさん! だめですよ!」と高橋朱雀をたしなめた。
「モモカちゃん、厳しくなったのう」
「まったく!」
「?」
茉莉はしんみりしていたので、自分の尻が撫でられようとしていたことに、気づいていなかった。桃香は彼との付き合いが長いのか、行動を把握しているようだった。
「セクハラはダメですよ!」
「スキンシップじゃて。ふぉっふぉっふぉ」
「さ、行きましょ」
「あ、はい。ありがとうございました!」
「またの!」
庭を出て眩しい朝日を二人で浴びる。
「どうだった?」
「よかったです。なんとなく続けられそうです」
「うん。きっと痩せられるよ」
「おじいさんも優しい人みたいだし」
「そうね。優しいけどえっちだから気を付けてね」
「えっちなんですかあ」
「まあでも、憎めないんだけどね。ああ、そうそう。もう膝はいいの? おじいさんも、ここの緑丸さんも腕がいいから身体の事で心配があれば相談するといいよ」
「いまのところ、とくにどこも大丈夫です」
「ん。じゃあまたね。私はまたお昼にお手伝いに行くね」
「はい! 失礼します」
手を振って走り去る桃香を見送って茉莉も家に帰る。
「はー、運動したらおなか減ったなあー。ああー、でもここで食べたらダメなんだっけえ」
ぐうぅっとお腹がなってしまった。そこへ高橋朱雀がやってきた。
「おや、マリちゃん、どうしたんじゃ?」
「え、あ、いえ。おなか減っちゃって」
茉莉は痩せようと思って運動を始めたのに、もう空腹が辛くなる自分に更につらくなった。
「急ぐのかな?」
「いえ、そんなに急いでないです」
「じゃあ、うちで中華粥でも食べておいき。脂肪を燃焼させやすいお茶も入れてあげるから」
「え? 脂肪燃焼?」
「うんうん」
茉莉は勧められるまま接骨院に入り、中華粥と特製の茶をご馳走になった。桃香同様、彼女も高橋朱雀に親しみを覚えていく。
「すごく美味しいです」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
「私、でも、意志弱いなあ」
「気にせんでええ。そのうち、ちゃんと整うからの。ふぉっふぉっふぉ」
「だといいなあ」
「ええのう。恋する乙女は」
「え! 恋って、なんで知ってるんですか?」
「ふぉーっふぉっふぉ。そりゃあ、若い娘がいきなり痩せたいと思うのは恋をしておるせいじゃろう。ばあさんも出会った頃から、どんどん綺麗になっていったわい」
「へえー。そうなんですかあ」
「綺麗になりたいと思う気持ちが大事じゃからの」
「桃香さんの彼にもイメージするといいって教えてもらいました」
「そうかそうか。クロも、モモカちゃんと落ち着いて丸くなったのお」
しばらく恋の雑談をして茉莉は接骨院を後にした。
「中華もいいなあー。ほんの少ししか食べてないのに。なんかすっごいお腹、落ち着いてる」
ふうっと息をはき出して、赤斗の事を思うと胸もいっぱいになる茉莉だった。
接骨院では高橋朱雀が、次世代ハーレム戦隊について構想しているところだった。
「モモカちゃんとマリちゃんと、やっぱり、もう3人くらいメンバー欲しいのう!」
嬉しそうにしている祖父を眺め、またえっちなことでも考えているんだろうと緑丸は生温かく見守っている。
「ドキドキするなあ。太極拳を教えてくれるおじいさんってどんな人だろ。赤斗さんも、桃香さんの彼も習ったみたいだし。きっと渋くてカッコイイんだろうなあ」
あれこれ想像していると、薄いピンク色のカンフー服を着た桃香がやってきた。
「あ、おはよう。茉莉ちゃんはやいのね」
「はい! ちょっと興奮しちゃって。その服かっこいいですね。本格的ー!」
「うん。せっかく続けてるから買ったの。でも、そのジャージでいいと思うよ」
「ちょっと、キツイんですけどね」
「平気よ。きっとすぐぶかぶかになるよ」
「だといいなあ」
「じゃ、こっちね」
接骨院の裏手に回ると綺麗に整えられた芝生の庭があり、そこで白い、やはりカンフー服を着た老人がゆるゆると流れる水のような動きを見せていた。
「おはようございます!」
「んん? おはよう。ああ、この娘かの?」
「そうです。こちらが太極拳を教えてくれる高橋朱雀先生。おじいさんって呼んでるけどね」
「伊藤茉莉です。よろしくお願いいたします!」
「うんうん。なかなかダイナマイトなお嬢さんじゃの! ふぉっふぉっふぉ」
まず呼吸を整えながらゆっくりと真似しながら動く。茉莉は慌ただしい動きや素早い動きが得意だったが、このようにゆるゆる動く運動をするのが初めてで、逆によく汗をかいた。
「ほほう。マリちゃん、なかなか筋がいいぞ」
「え? ほんとですか?」
「ふぉっふぉっふぉ。うんうん、もともとの筋肉がしなやかだの」
「いいなあ。茉莉ちゃんはスポーツマンなんですよ」
「いやあ。もう今は全然してないんですけどねえ」
「うんうん。したくないときはせんでええ。したくなったらすりゃあええ」
一時間ほどで終了すると、茉莉はなんだか心も身体もすっきり爽快だった。
「はあー。なんか、きもちいいー」
「でしょ?」
「はい! ゆっくりすぎて出来るかなあって心配でしたけど、なんか不思議な気持ち良さです」
「そうか、そりゃあ良かった。人生慌ててはいかんぞ。急ぐ時もあるがな、こうして自然に任せてゆったりすると忙しい時でも余裕が生まれるからの」
「なるほどおー」
「さて、そろそろ帰って朝ごはん作らないと。茉莉ちゃんも一回帰るでしょ?」
「はい。お店は10時に行けばいいので」
「ああ、赤斗のところに勤めておるんじゃったな。マリちゃんに会いに今度食べに行こうかの」
「ありがとうございます!」
「ふぉっふぉっふぉ。元気じゃのう。死んだばあさんにそっくりじゃの」
「え? 亡くなったおばあさん?」
「うんうん、腰回りの逞しさときたら」
そこへ桃香が「おじいさん! だめですよ!」と高橋朱雀をたしなめた。
「モモカちゃん、厳しくなったのう」
「まったく!」
「?」
茉莉はしんみりしていたので、自分の尻が撫でられようとしていたことに、気づいていなかった。桃香は彼との付き合いが長いのか、行動を把握しているようだった。
「セクハラはダメですよ!」
「スキンシップじゃて。ふぉっふぉっふぉ」
「さ、行きましょ」
「あ、はい。ありがとうございました!」
「またの!」
庭を出て眩しい朝日を二人で浴びる。
「どうだった?」
「よかったです。なんとなく続けられそうです」
「うん。きっと痩せられるよ」
「おじいさんも優しい人みたいだし」
「そうね。優しいけどえっちだから気を付けてね」
「えっちなんですかあ」
「まあでも、憎めないんだけどね。ああ、そうそう。もう膝はいいの? おじいさんも、ここの緑丸さんも腕がいいから身体の事で心配があれば相談するといいよ」
「いまのところ、とくにどこも大丈夫です」
「ん。じゃあまたね。私はまたお昼にお手伝いに行くね」
「はい! 失礼します」
手を振って走り去る桃香を見送って茉莉も家に帰る。
「はー、運動したらおなか減ったなあー。ああー、でもここで食べたらダメなんだっけえ」
ぐうぅっとお腹がなってしまった。そこへ高橋朱雀がやってきた。
「おや、マリちゃん、どうしたんじゃ?」
「え、あ、いえ。おなか減っちゃって」
茉莉は痩せようと思って運動を始めたのに、もう空腹が辛くなる自分に更につらくなった。
「急ぐのかな?」
「いえ、そんなに急いでないです」
「じゃあ、うちで中華粥でも食べておいき。脂肪を燃焼させやすいお茶も入れてあげるから」
「え? 脂肪燃焼?」
「うんうん」
茉莉は勧められるまま接骨院に入り、中華粥と特製の茶をご馳走になった。桃香同様、彼女も高橋朱雀に親しみを覚えていく。
「すごく美味しいです」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
「私、でも、意志弱いなあ」
「気にせんでええ。そのうち、ちゃんと整うからの。ふぉっふぉっふぉ」
「だといいなあ」
「ええのう。恋する乙女は」
「え! 恋って、なんで知ってるんですか?」
「ふぉーっふぉっふぉ。そりゃあ、若い娘がいきなり痩せたいと思うのは恋をしておるせいじゃろう。ばあさんも出会った頃から、どんどん綺麗になっていったわい」
「へえー。そうなんですかあ」
「綺麗になりたいと思う気持ちが大事じゃからの」
「桃香さんの彼にもイメージするといいって教えてもらいました」
「そうかそうか。クロも、モモカちゃんと落ち着いて丸くなったのお」
しばらく恋の雑談をして茉莉は接骨院を後にした。
「中華もいいなあー。ほんの少ししか食べてないのに。なんかすっごいお腹、落ち着いてる」
ふうっと息をはき出して、赤斗の事を思うと胸もいっぱいになる茉莉だった。
接骨院では高橋朱雀が、次世代ハーレム戦隊について構想しているところだった。
「モモカちゃんとマリちゃんと、やっぱり、もう3人くらいメンバー欲しいのう!」
嬉しそうにしている祖父を眺め、またえっちなことでも考えているんだろうと緑丸は生温かく見守っている。
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