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団長
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俺は目の前に立つ大柄な男をじっと睨みつけていた。
筋肉質な体と、隙のない視線。剣の切っ先はブレることなくピタリとこちらを捉えている。
(……絶対に、勝てない)
アシェルを掴んで飛んで逃げることはもう出来ない。
周りの男たちも各々が弓と剣を構えて完全包囲。後ろは洞穴と無機質な岩肌が退路を塞いでいる。
緊張で喉が鳴る。
そのときだった。
「武器を下げろ!!」
大柄な男が鋭く声を放った。
部下たちが一斉に動きを止める。
「怖がらなくていい」
そう言って男は剣を鞘に収めて、両手をあげた。
「俺はマスラーク領私兵団長、ラーシュ・ギデンズと言う。怖がらせて悪かった。危害を加えるつもりはない。俺達はこの森の調査に来ただけなんだ。」
ラーシュと名乗った男。大きな声は聞けば迫力があるのに、どこか不思議と温かさが感じられる。
ふわりと崩したその表情は、気の良いおっちゃんといった感じだ。
いやでも、信用は出来ない。油断させて捕まえようって事かもしれない。
俺はなおもアシェルを背に隠すように威嚇を続ける。
「羽の生えたお前」
「……」
今度は俺に目線を合わせて話しかけてきた。
「向こうに落ちてる魚、お前が獲ったのか?」
くい、首を傾けたラーシュ。
その方向に目を向けると、湖で獲ってきた魚が地面に落ちていた。
アシェルを助けようと思って体当たりした時に、その場に落としてしまったようだ。
「2匹ってことは……お前の分と、もう1匹はその子の分、か?」
その通りなので、俺は黙って頷いた。
「……そうか」
その様子を見て、何か決心したように小さな息を吐く。
おもむろにベルトに手をかけたかと思えば、俺たちの目の前で腰の装備を外し、提げていた剣を地面に落とした。
それどころか、続けて胸当ての留め具まで外し始めた。
ガチャッ、と留め金が外れる音が森に響く。
おいおい、何してんだおっちゃん!?
驚いていたのは俺だけじゃないようだ。
「だ、団長!?」
「ちょっと!何してんすか!!」
さっきまで殺気立っていた周りの人たちも突然のことにざわついている。
そんな声を無視して、ラーシュはどんどん装備を外していった。胸当てを地面に置き、手甲、脚甲、肩の革当て……。
使い込まれ、よく鞣した硬い革が地面に落ちるたびに、どうしたら良いか戸惑ってしまう。
俺もアシェルもただ固まって見ているしかなかった。
そして――そのままシャツまで脱ぎだした。
「わぁー!!団長!!!」
周りの阿鼻叫喚もどこ吹く風といった様子で、ズボンにも手をかけ、一切ためらうことなく脱ぎ捨て、鍛え上げられた肉体があらわになっていく。
あっという間にパンツ一丁だ。
(おっちゃん……まじかよ……)
背後から飛んでくる制止の声など聞こえないような顔で、どっかりとその場にあぐらをかいて座った。
完全な無防備である。
「これで、信じてくれるか?」
な、なんなんだこの人。気持ちが良いほど潔い。
子供相手に、仲間の前で裸になってまで安心させようとするその姿に、すっかり呆気にとられてしまった。
緊張と毒気が、全部ふっとんだ気がする。
ポカンとしてると、アシェルが俺の羽にそっと触れてきた。
「……フィル」
俺の逆立つ羽を軽く撫でつけて、落ち着くように促してくる。 表情を伺えば、まだ不安そうにしているものの、目はさっきほど怯えてはいないように見えた。
その一言で、俺はようやく息を吐き、肩の力を抜いた。
俺たちの反応を見て、ラーシュは静かに頷いた。
「事情があるなら聞かせてほしい。困っているようなら、助けたい」
俺はゆっくりと翼を畳み、アシェルは小さく頷いた。
こうして俺たちは、彼らに保護されることとなったのだった。
筋肉質な体と、隙のない視線。剣の切っ先はブレることなくピタリとこちらを捉えている。
(……絶対に、勝てない)
アシェルを掴んで飛んで逃げることはもう出来ない。
周りの男たちも各々が弓と剣を構えて完全包囲。後ろは洞穴と無機質な岩肌が退路を塞いでいる。
緊張で喉が鳴る。
そのときだった。
「武器を下げろ!!」
大柄な男が鋭く声を放った。
部下たちが一斉に動きを止める。
「怖がらなくていい」
そう言って男は剣を鞘に収めて、両手をあげた。
「俺はマスラーク領私兵団長、ラーシュ・ギデンズと言う。怖がらせて悪かった。危害を加えるつもりはない。俺達はこの森の調査に来ただけなんだ。」
ラーシュと名乗った男。大きな声は聞けば迫力があるのに、どこか不思議と温かさが感じられる。
ふわりと崩したその表情は、気の良いおっちゃんといった感じだ。
いやでも、信用は出来ない。油断させて捕まえようって事かもしれない。
俺はなおもアシェルを背に隠すように威嚇を続ける。
「羽の生えたお前」
「……」
今度は俺に目線を合わせて話しかけてきた。
「向こうに落ちてる魚、お前が獲ったのか?」
くい、首を傾けたラーシュ。
その方向に目を向けると、湖で獲ってきた魚が地面に落ちていた。
アシェルを助けようと思って体当たりした時に、その場に落としてしまったようだ。
「2匹ってことは……お前の分と、もう1匹はその子の分、か?」
その通りなので、俺は黙って頷いた。
「……そうか」
その様子を見て、何か決心したように小さな息を吐く。
おもむろにベルトに手をかけたかと思えば、俺たちの目の前で腰の装備を外し、提げていた剣を地面に落とした。
それどころか、続けて胸当ての留め具まで外し始めた。
ガチャッ、と留め金が外れる音が森に響く。
おいおい、何してんだおっちゃん!?
驚いていたのは俺だけじゃないようだ。
「だ、団長!?」
「ちょっと!何してんすか!!」
さっきまで殺気立っていた周りの人たちも突然のことにざわついている。
そんな声を無視して、ラーシュはどんどん装備を外していった。胸当てを地面に置き、手甲、脚甲、肩の革当て……。
使い込まれ、よく鞣した硬い革が地面に落ちるたびに、どうしたら良いか戸惑ってしまう。
俺もアシェルもただ固まって見ているしかなかった。
そして――そのままシャツまで脱ぎだした。
「わぁー!!団長!!!」
周りの阿鼻叫喚もどこ吹く風といった様子で、ズボンにも手をかけ、一切ためらうことなく脱ぎ捨て、鍛え上げられた肉体があらわになっていく。
あっという間にパンツ一丁だ。
(おっちゃん……まじかよ……)
背後から飛んでくる制止の声など聞こえないような顔で、どっかりとその場にあぐらをかいて座った。
完全な無防備である。
「これで、信じてくれるか?」
な、なんなんだこの人。気持ちが良いほど潔い。
子供相手に、仲間の前で裸になってまで安心させようとするその姿に、すっかり呆気にとられてしまった。
緊張と毒気が、全部ふっとんだ気がする。
ポカンとしてると、アシェルが俺の羽にそっと触れてきた。
「……フィル」
俺の逆立つ羽を軽く撫でつけて、落ち着くように促してくる。 表情を伺えば、まだ不安そうにしているものの、目はさっきほど怯えてはいないように見えた。
その一言で、俺はようやく息を吐き、肩の力を抜いた。
俺たちの反応を見て、ラーシュは静かに頷いた。
「事情があるなら聞かせてほしい。困っているようなら、助けたい」
俺はゆっくりと翼を畳み、アシェルは小さく頷いた。
こうして俺たちは、彼らに保護されることとなったのだった。
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