夏の行方。

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2章 蠢く者

-零零話- 流れても止まる刻

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月也がこの世を去り葬儀も行われ、月也のいないこの世界は止まることなく時は流れる。月也の死後、単身赴任だった父親は退職し、母親と一緒に過ごせるようにと地元で小さな不動産会社に転職した。母親は体調を崩して入院したが無事に退院して、身体を労り勤務時間を減らすために商店街のスーパーのパートに転職した。月也を失った両親の心の傷は癒えないが当たり前のように今日が過ぎ明日を迎える。いつか月也が帰ってくるのではないかと願い毎日を過ごす。

月也のいない部屋の時計は今もなお時を刻み続け、乱雑にはだけた布団は月也の温もりが残っていそうなほどにあの日のままの状態であった。

月也の訃報はクラスメイトに衝撃を与えたが、死を痛む声よりもビックニュースと言わんばかりのある種の話題のネタのような扱いであった。それは月也がこのクラスメイトに対して思い入れが無かったのと同じでクラスメイトもまたほとんどの生徒が月也に対する思い入れなど無かったのだ。麻里は唯一心を痛めているクラスメイトである。

海斗はあれ以来無口になりクラスメイトから完全に孤立していた。学校へ来る頻度も激減し、来ても空気と化し、月也がいないこの空間に絶望している。
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