笑わない魔法使いの異世界見聞録

黒砂糖

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第一章

始まりの街カリス

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 賑やかな町の喧噪。木材、煉瓦造りでできた家や建物が建ち並び、人々で賑わうカリスの町。
 山や森が近いため、林業が盛んで穏やかな町だ。

 馬車乗り場から出てすぐの大通り。オルティアにとって初めて訪れた町となる。

「イクス。着きましたよ」

 鞄の中のイクスは揺れでダウンしているが、なんとか外の空気を吸おうと鞄から顔を出す。
結局カバンの中に入っていたが、それはそれで揺れが酷かったようだ。

「やっとか」

「そこまで長くはなかったですが」

 それでもイクスにとっては永遠のように感じたのだろう。
 彼女はいつも通りの平気そうな顔をしている。鞄からメモを取り出し、アリサの指示を確認する。

「町に着いたら、まずはギルドで冒険者登録をしろ、とのことです」

 この町も結構な田舎だが、それでも冒険者ギルドは存在する。冒険者になることで、クエスト、という依頼を達成したとき、ギルドから報酬を貰える。アリサに貰ったのはにほんの少しのお金。自分でお金を稼ぐのも修行のうちだと言っていた。

「まぁ普通だな、さっさとギルド行こうぜ」

「はい」






 ギルドに続くという大通り。宿屋や酒場など様々な商店が軒を連ねる。
 多くの人とすれ違う中で、オルティアは疑問を感じていた。今の自分は、動きやすい男物の服に、マントを羽織ってフードを深く被っているため、顔は見え辛くなっている。師匠は言っていた。町では顔をなるべく隠すようにと。
 だが大通りを行きかう人々は顔など隠していない。自分と同じくマントをしている者もいるが、もちろんフードは外している。
 フードを目深に被ると視界は悪くなる、だが特に利点はない。なぜ師匠がこのような指示をしたのかわからない。

「イクス」

「ん?」

「なぜ顔を隠さなければならないのでしょう」

「……そりゃあお前は目立つからな」

 イクスは言葉を濁す。彼女の見た目だけは超美少女だ。アリサとしては愛弟子に変な虫が付かないよう、なるべく顔を隠して無駄に目立たせず、または余計ないざこざに巻き込まれないようにする思惑だった。
 イクスとしては、自分もいるし、そもそもオルティアなら変な虫なんかに靡かないだろうと、アリサの指示は過保護のようにも思えていた。

 一般的な美的感覚がわからないため、彼女は自分の容姿をよく把握できていなかった。なので師匠の意図は伝わらなかったようだ。





 そうこうしているうちに、他の住宅や商店より背の高い建物が見えてくる。冒険者ギルドだ。
 ギルド周辺では、防具や剣などで武装した人々が多く見られる。

「あれが冒険者なんですね」

「ギルドなんて久々だなぁ」

 イクスはしみじみと呟く。このギルドにはイクスも訪れたことがある。今はこんなナリとはいえ、元々冒険者だ。活躍していた過去を思い出し、何としても元に戻ってやると誓う。
 
 ギルドの入口の戸を開くと、ロビーには様々な冒険者で溢れていた。
 ぐるりと辺りを見回す。傭兵のように厳つく筋骨隆々の男性。まだ若い駆け出しの青年、少ないが中には女性も何人かいる。だが自分のような子供は見掛けない。

 待ち合いスペースでは仲間と雑談している者が多い。ギルドはあくまで依頼受注の場だと聞いたが、実際は随分と活気があるらしい。
 いざ冒険者登録をしようと、まっすぐカウンターに近付き、受付をしている男性に話しかける。

「冒険者登録をしたいのですが」
 
 書類に向かって作業をしていた男性は、顔を上げた。

「……あ、はい。すみません。この用紙にご記入ください」

 そう言って、用紙を手渡される。
 そこには名前や性別、年齢などの情報を記入する欄があり、あとは任意で、使用する武器等の種類を書く項目があった。
 師匠に教えられた通りの情報を書き込んでいく。全て書き終えた時、用紙を受付に返す。それを笑顔で受け取る男性。

「はい、オルティアさんですね。歳は16? 若いんですね」

 年齢と性別を見て、訝しげな顔をする受付の男性。冒険者は決して安全な職ではない。16歳の年頃の少女がなりたいようなものではないだろう。
 ちなみに16が登録の最低限の年齢条件だ。記憶がない彼女の正確な年齢がわからないので、師匠には冒険者ができる16を名乗ればいいと言われている。

「では失礼ですがサイズ調整のため測定するので少し手を出してください。」

「はい」

 ふと、オルティアが手を出す際にずれたフードの位置を直し、顔を更に隠そうとする。

 その行為を見た男性は不審に感じた。頑に顔を隠すということは、何か怪しい。最近ではこのギルドにも指名手配書が出回るようになっているのだ。自称年齢も若すぎるし、行動も不審だ。万が一のことも考え、確認をしてみる。

「失礼ですが。御登録の際に顔を隠すのは、防犯のため御遠慮願えますか」

 それに少し固まるオルティア。それを見た男性はますますこの全身を隠す少女に不審を抱く。

 一方、オルティアのほうは師匠になるべく隠すようにいわれている。なるべくということは絶対ということではない。ならばこの場合はどうだ。
 イクスに相談しようと鞄に手を入れる。全て聞こえているイクスは、鞄の中で彼女の手に文字をなぞって書き、それを触感だけで読んでいく。

 『ここはしかたない』
 
 手にはそのようなことを書かれた。

 イクスの助言を貰ったオルティアは、フードを外して背中に垂らす。中で乱れ、顔にかかる長い銀髪を振り払うように頭を振る

 顔を見た男性は言葉を失った。珍しい灰色の瞳に美しい顔立ち、絹のように艶やかな銀の髪。その顔に何の表情はないが、それが却ってその美貌を神秘的に引き立てる。絶世の美少女がそこにはいた。

 彼は見惚れてしまっていたのだ。受付をしてもう長くなるが、来るのはむさい野郎ばかりだった。稀に来る女性冒険者の中でもこの少女は場違いなほど美しい。物語の中のお姫様、そういわれても信じてしまいそうだ。男性は軽く感動すらしていた。
 オルティアは男性の言葉の続きを待っているのだが、一向に反応が返ってこないのを疑問に感じ、首を傾げる。

「…あ、あはい! すみません! ではこの情報を元に冒険者証をお作りさせていただきますので、少々お待ちください!」

 正気に戻った彼はカウンターの奥に走っていった。






「お待たせしました、冒険者証です」

 暫くして、男性が戻ってきた。その手には銅でできた腕輪が握られている。
 それを受け取り、手にはめる。ぴったりとはまったその腕輪には、淡く光る小さな石が埋め込まれていた。

「それは魔石で、先程の情報を入れております。他の町のギルドでも、その腕輪があれば依頼を受注できます。そこに触れてください」

 男性に指示された通り、魔石に軽く触れると、魔石が輝きを増し、先程記入したオルティアの個人情報が浮かび上がらせる。
 これで晴れて冒険者になれた。再びフードを被ったオルティアは腕輪を付けた手をマントの中に仕舞う。

「この腕輪は最初は銅ですが、実績を積み重ねることによって高位のものに交換できます」

 男性が説明するには、依頼を達成していくことで、冒険者としてのランクは上がり、ランクが上がればより高難易度の依頼を任されるようになり、報酬も良くなる。

 初期は銅だが、達成した依頼の数やそのランクで受けられる中でも難しい依頼をクリアすると、腕輪の魔石に浮かびあがる数字が大きくなっていく。これが100になると、銀の腕輪を使用することが許可され、数字をリセットし、次は500で金の腕輪へ。金の腕輪にもランクカウントがあるが、特に上限はない。
 当然だがオルティアの腕輪に浮かぶ数字は1。冒険者としては最弱のランクだ。

「わかりました」

「で、では頑張ってください。本当にすいませんでした」

 何故か謝られた。
 疑問を抱きつつ、ギルドを後にした。

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