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ちぐはぐ。第七話
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飲み会の場所は、それは素敵な居酒屋だった。
小ぎれいだし、雰囲気もいいし、メニューもいい。飲み物の種類も豊富。
「はい、桂木さん」
「どうもありがとうございます」
チーズフォンデュの串を取ってくれた女の子に、俺は棒読みのように礼を言った。
俺を呼んだ女の子は、職場つながりの20代半ばくらいの女性で、なかなか可愛い。
俺も実は、前から悪くないと思っていた。
太ってもいないし、顔も悪くないし、服のセンスも嫌いじゃない。
性格も感じがよい。
どうやら、俺に気があるらしくて、仲間と俺を呼ぶことを考えたらしい。
だが、ひとつ困ったことがある。俺は、全然楽しくないのだ。
この、恵まれた環境。彼女いない歴数か月の俺にとって、何の不満もない状況であるはずだ。
だが、俺は全然嬉しくないのだ。
隣で、彼女が俺を見て笑いかけている。
ほら、俺。桂木マサヤ、32才。反応しろ。
彼女が選んで着けて来たであろう、揺れるゴールドのアメリカンピアスに、雄として反応するんだ!
そう、心の中で自分に葉っぱをかけるのだが、何にしろ俺の雄の本能は全く反応しないのだ。
前城は、大丈夫だろうか。頭の中はそればかりだった。
やはり、あれほど荒れていた前城を置いて来たことは間違いだったのではないだろうか。俺はそんなことを考え始めた。
三時間。この三時間が、俺には拷問に感じられ始めた。
申し訳ない。せっかく誘ってくれたのにも申し訳ないし、好意を寄せてくれるのにも申し訳ない。自分で来ると決めたくせに。だが、俺にはもう、どうしようもないようだ。
クリスマスシーズンの祝日に、店はきっちり三時間で、次の客を入れる。
俺はどうにかそこまで待つと、待ちきれないで立ちあがり、皆と別れることにした。
「あの、これから二次会に行きませんか」
「すみません」
俺が頭を下げて立ち去ろうとすると、追って女の子が聞いてくる。
集団と離れて、二人だけの会話である。
「あの……桂木さん、彼女いないって聞いていたんですけど、何か……ご予定があるんですか?」
「ある。あります。あるんです。すみません」
そう言って頭を下げる俺に、彼女も察してくれたようだった。
本当、煮え切らない俺で悪かった。俺はそう思いながら、マンションまで競歩のようなスピードで帰る。
前城は大丈夫だろうか。酔いつぶれて寝ているだろうか。それなら、まだいい。
具合が悪くなってないだろうか。それとも、思い悩んでいないだろうか。
いいか、前城。あまり深く考えるな。お前は、深く考える性格じゃないだろう?
お前はどんな時も明るくて、軽快なテンポの男のはずだ。
俺はそう念じながら、自分のうちのマンションにたどり着き、自分の階のひとつ上の階に、階段で上った。
預かった合鍵で、ドアを開ける。うちのと同じだから、手際よくすぐに開く。
ドアを開けると、そこに、包丁を片手に持った前城がいた。
小ぎれいだし、雰囲気もいいし、メニューもいい。飲み物の種類も豊富。
「はい、桂木さん」
「どうもありがとうございます」
チーズフォンデュの串を取ってくれた女の子に、俺は棒読みのように礼を言った。
俺を呼んだ女の子は、職場つながりの20代半ばくらいの女性で、なかなか可愛い。
俺も実は、前から悪くないと思っていた。
太ってもいないし、顔も悪くないし、服のセンスも嫌いじゃない。
性格も感じがよい。
どうやら、俺に気があるらしくて、仲間と俺を呼ぶことを考えたらしい。
だが、ひとつ困ったことがある。俺は、全然楽しくないのだ。
この、恵まれた環境。彼女いない歴数か月の俺にとって、何の不満もない状況であるはずだ。
だが、俺は全然嬉しくないのだ。
隣で、彼女が俺を見て笑いかけている。
ほら、俺。桂木マサヤ、32才。反応しろ。
彼女が選んで着けて来たであろう、揺れるゴールドのアメリカンピアスに、雄として反応するんだ!
そう、心の中で自分に葉っぱをかけるのだが、何にしろ俺の雄の本能は全く反応しないのだ。
前城は、大丈夫だろうか。頭の中はそればかりだった。
やはり、あれほど荒れていた前城を置いて来たことは間違いだったのではないだろうか。俺はそんなことを考え始めた。
三時間。この三時間が、俺には拷問に感じられ始めた。
申し訳ない。せっかく誘ってくれたのにも申し訳ないし、好意を寄せてくれるのにも申し訳ない。自分で来ると決めたくせに。だが、俺にはもう、どうしようもないようだ。
クリスマスシーズンの祝日に、店はきっちり三時間で、次の客を入れる。
俺はどうにかそこまで待つと、待ちきれないで立ちあがり、皆と別れることにした。
「あの、これから二次会に行きませんか」
「すみません」
俺が頭を下げて立ち去ろうとすると、追って女の子が聞いてくる。
集団と離れて、二人だけの会話である。
「あの……桂木さん、彼女いないって聞いていたんですけど、何か……ご予定があるんですか?」
「ある。あります。あるんです。すみません」
そう言って頭を下げる俺に、彼女も察してくれたようだった。
本当、煮え切らない俺で悪かった。俺はそう思いながら、マンションまで競歩のようなスピードで帰る。
前城は大丈夫だろうか。酔いつぶれて寝ているだろうか。それなら、まだいい。
具合が悪くなってないだろうか。それとも、思い悩んでいないだろうか。
いいか、前城。あまり深く考えるな。お前は、深く考える性格じゃないだろう?
お前はどんな時も明るくて、軽快なテンポの男のはずだ。
俺はそう念じながら、自分のうちのマンションにたどり着き、自分の階のひとつ上の階に、階段で上った。
預かった合鍵で、ドアを開ける。うちのと同じだから、手際よくすぐに開く。
ドアを開けると、そこに、包丁を片手に持った前城がいた。
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